「いや、本当に申し訳ない。皇子がそれ程慎重なお方とは知りませんでした。ただ先程の娘が余りに綺麗だったので、少し興味を持ったもので。まぁ、この話しは忘れて下さい」

(佐由良に興味を持っただと。何を言ってるんだ。仮にも釆女としてこの宮にやって来た娘だぞ)

 瑞歯別皇子(みずはわけのおうじ)は、何とも言えない苛立ちを無理やり押さえながら話しを続けた。

「それで今回来られたご用件は」

「はい、ここ最近は前大王の崩御や、兄上様の謀反など、色々大変な事が続いたと伺っております。そのお慰めと、葛城としましても今後も長くお付き合い頂きたいと思いまして。
 あと個人的事ではありますが、磐之媛(いわのひめ)の嫁ぎ先を見てみたいと思い、葛城側に許可を頂いた次第です」

「そうですか。それはわざわざご配慮頂き有り難うございます。それでこれからどうなさるおつもりですか」

「はい、もしお許し頂ければ、数日ここにいさせて頂きたいと思います」

 それを聞いた瑞歯別皇子は、葛城からの訪問者をぞんざいに扱うのも失礼だと思い、それは構わないと思った。

「それは構いません。是非ゆっくりしていって下さい。大王の元にはその後行かれるのですか」

「いえ、その後は一旦葛城に帰りまして、大王の元にはまた改めて伺わせて頂きます」

(何、兄上の所には行かないだと。何ともおかしな話しだな……)

「そうですか。まぁ、今回はここに来て頂けただけでも有り難い。存分に休んでいかれて下さい。では、私はこれで一旦失礼します」

「はい、わざわざご配慮頂き感謝します」

 そうして瑞歯別皇は供を連れて、部屋を出ていった。