佐由良が瑞歯別皇子(みずはわけのおうじ)の元に来てから、1ヶ月程が経ち、佐由良も新しい宮仕えにだいぶ慣れて来た頃だ。そんな中、新たな事件が起ころうとしていた。


 先の大君、大雀大王(おほさざきのおおきみ)の皇后であった磐之媛(いわのひめ)が亡くなり早1年が経とうとしている。

 磐之媛は豪族葛城の姫で、大和と葛城との政略結婚であった。ただこの時代、一族同士の政略的な結婚は珍しいものではなく、当たり前のように行われていた。

 そして磐之媛の婚姻のお陰で、葛城は大きな権力を持ち合わせるようになった。


 磐之媛命の従姉にあたる嵯多彦(さたひこ)は、元々母親の身分が低かった為、余り良い扱いを受けておらず、育った環境も恵まれていなかった。その為、彼は野心がとても強かった。
 そして従姉の磐之媛を一途に慕っていたが、彼女は大雀大王に嫁ぎ、そして亡くなってしまった。
 
 その為大和に対して恨みを持っていた。

「今の去来穂別大王(いざほわけのおおきみ)が死んでも、まだ弟の瑞歯別皇子がいる。何てたって実の兄も平気で殺せる奴だ。とすると、先に瑞歯別皇子を殺した方が良いか。そうすれば大和もだいぶぐらつくはずだ」

 彼の目的は、大和そのものを滅ぼし、そして自分自身が大きな権力を得る事だった。

「とりあえず、準備を始めるか。そして最終的に皇子が油断した所で一気に止めをさす」