「え、私が美人?そんな事言われたの初めてだわ」

 佐由良は思いもよらない事を言われて驚いた。そんな事は今ではとても考えられなかった。

「え、あなた気が付いてなかったの?他の男子達も、何気にあなたを見てる人多いわよ。さすがは吉備のお姫様だなと」

 胡吐野(ことの)からしてもこれはかなり意外だった。

 佐由良がこの宮に来た当初、彼女の事は直ぐに話題になった。年はまだ13歳だがとても綺麗な顔立ちで、思わず守りたくなるような、そんな繊細な感じに思えた。だが釆女である以上、誰も彼女にはよう手が出さない状況である。

「私そんなの知らないわ。その異性に言い寄られた事もないのに……」

 佐由良は恥ずかしくなって、顔を下に向けた。こんな事を話すだけでも自分が情けなく思えて来る。

「まぁ、あなた年の割にしっかりしてると思ってたけど、色恋事に関してはまだまだなのね」

 吉備海部にいた頃は、族の男の子からはいつも嫌がらせを受けていた為、むしろ苦手な存在であった。唯一仲良くしてくれてたのが、従兄弟の阿止里(あとり)だけだった。

「それに、瑞歯別皇子(みずはわけのおうじ)もまだ妃を取ってないから、いずれ皇子に取られておしまいだと宮の男達が嘆いてたわ」

 それを聞いた佐由良は、とても驚いた。

「皇子が私を娶るなんて、絶対あり得ません!」

「まぁ、皇子は吉備自体を嫌ってるから、確かにそうかもしれないわね。あぁ、皇子の変なこだわりが無ければ、あなた娶られてたかもね」

 何て話しを聞いてしまったのかと佐由良は思った。瑞歯別皇子は自分の事を嫌ってるから、そんな事になるはずはないと思っていた。
 そもそも自分が男達に見られてると言う事自体思いもしなかった。

 ただ釆女としてここにいる以上、手を出せるのは瑞歯別皇子のみって事になるのだろうか。

(住吉仲皇子の元にいた頃は、大和に来たばかりでそんな事気にも止めてなかったわ)