瑞歯別皇子(みずはわけのおうじ)、お食事をお持ちしました」

 宮の女達が、皇子の元に食事を運んで来た。その中には佐由良もいた。

「あぁ、ご苦労。ここに置いて来れ」

 女達はそそくさと食事を皇子の前に置いた。佐由良もそれに続いた。

 一瞬佐由良の存在に気付いたようだが、彼女とは目も合わそうとはしない。

(住吉仲皇子(すみのえのなかつおうじ)は、いつもこんな時は笑顔で応えてくれたのに。この皇子は本当に無愛想だわ。まぁ、人を平気で殺せれる訳だし、余り人に関心が無いのかもしれない)

 そうして食事を出し終えると、女達はそのまま皇子の部屋を離れた。

 佐由良が皇子と顔を合わせるのはこの食事の時のみで、それ以外は皇子の側に近付く事は全くなかった。

 その後の仕事も終えると、女達は休憩場所で休んでいた。佐由良も休憩していると、他の采女の女が声をかけて来た。

「佐由良はあなたいくつなの?」

「え、私ですか?13です」

 それは聞いた彼女は、とても興味深そうに佐由良を見た。

「そうなの。あなたも里にいれば、そろそろ結婚を考える頃なのにね」

 彼女に話し掛けて来たのは、佐由良より3歳上の胡吐野(ことの)だった。彼女は大和近辺の豪族筋にあたる娘だ。

「別に里に戻っても、どうせいいように使われるだけなので、誰かの慰めものにでもされてたかもしれません。そう言う意味ではここに来て良かったのかも」

 あの乙日根が、価値のない自分をどうするかと考えたら、そんな事ぐらいしか思い付かない。同じ族内の男に嫁がすなんて事も恐らくは難しいだろう。

「まぁ、吉備のお姫様と思ってたけど、あなたも色々大変だったのね」

 胡吐野は少しばつの悪い話しをしてしまったと思った。吉備は大和でも有名な大豪族で、そこの姫となれば、かなり大事に扱われていたと思っていたのだ。

「佐由良、あなたかなり美人だから、引く手あまただったんだろうなと思って」