住吉仲皇子(すみのえのなかつおうじ)は、1人空を見上げていた。

「私はこれからどうなるのだろうか」

 ただ自分は黒媛が欲しかっただけだ。その為には、去来穂別皇子(いざほわけのおうじ)を倒すしかなかった。

 だが兄の去来穂別皇子は上手く逃げてしまい、家臣もほんのわずかとなってしまった。

(このままどこか遠くに逃げてしまおうか……)

「住吉仲皇子」

 名前を呼ばれ彼が振り向くと、そこには刺領巾(さしひれ)が立っていた。そして彼は手に刃物を握っている。

「刺領巾一体どうした。刃物など握って」

 住吉仲皇子が刺領巾の顔を見ると、彼の顔は凄い狂気に満ちていた。そして何とも異様な空気を出している。

「皇子、去来穂別皇子はもう許しては下さいません。それで瑞歯別皇子(みずはわけのおうじ)から話がありました」

「何?瑞歯別が」

 刺領巾はゆっくりと住吉仲皇子に近付いていった。

 その狂気の顔に恐れを感じ、彼は思わず後ずさりをした。

「瑞歯別は何と言って来たんだ」

「はい、皇子は……」

 そう言った瞬間、刺領巾はすぐさま住吉仲皇子の元に走って来て、握っていた刃物で住吉仲皇子の体をグサッと一気に刺した。

「何、何をするんだ刺領巾」

 住吉仲皇子は思わず体をふらつかせて、その場に倒れた。

その様子を見ながら刺領巾は「瑞歯別皇子は、皇子を殺すよう私に命じられました」と冷たく言った。

「瑞歯別が私を殺せとだと。くそ、刺領巾……お前も裏切ったな」

 住吉仲皇子の受けた傷は思いの外深かった。

 そしてしばらくのたうち回った後に、彼は息を引き取った。

 刺領巾は住吉仲皇子が亡くなったのを確認し、彼から刃物を抜いた。そしてそのまま、彼は瑞歯別皇子の元へと向かって行った。