石上神宮(いそのかみじんぐう)に逃げていた去来穂別皇子(いざほわけのおうじ)の元に、瑞歯別皇子(みずはわけのおうじ)がやって来た。

「兄上、大丈夫ですか」

 いつもなら優しい兄である去来穂別皇子だが、弟の住吉仲皇子(すみのえのなかつおうじ)に命を狙われている為、同じ弟の瑞歯別皇子に対してもかなり警戒していた。

 その為、瑞歯別皇子との面会を拒絶した。

 瑞歯別皇子も無理のない事と分かりながらも、何とか信じて貰えないかと訴えた。

「兄上、私は兄上を裏切ったりはしません。どうか私を信じて下さい」

 瑞歯別皇子は建物の外から、去来穂別皇子に呼び掛けた。

 それまで口を閉ざしていた去来穂別皇子が建物の中から話し掛けて来た。

「それは誠か。瑞歯別お前は私を裏切る事はしないと……」

「はい、本当です。私の命にかえても断言出来ます。次の大王になる兄上に背くなんて事、私には出来ません」

 すると去来穂別皇子はしばらく無言を続けた。そしてしばらくしてから、瑞歯別皇子に言った。

「分かったそれが本当であれば、お前に頼みがある」

「私に頼み?一体なんでしょう」

「住吉仲皇子の私に対する謀反を許す訳にはいかない。そこでお前に皇子を討って貰いたい」

「住吉仲皇子を殺せと言う事ですか」

「そうだ、あいつを殺せたら、私はお前を信じよう」

 瑞歯別皇子は一瞬固まった。住吉仲皇子も自分にとっては兄である。

(実の兄である住吉仲皇子を私が殺す)

 それを聞いて瑞歯別皇子もしばらく考え込んだ。

「分かりました。確かに今回の謀反は許せられるものではありません。住吉仲皇子を討つ事にします。私が見事討った時は、兄上は私を信じていただけるのですね」

「あぁ、見事住吉仲皇子を討った際はお前を信じる事にする」

「分かりました。ではこれから住吉仲皇子を討ちに行って来ます。兄上はしばらくこのままここにいて下さい」

 瑞歯別皇子はそう言って石上神宮を後にした。