翌日、佐由良がいつものように仕事をしていると、

「佐由良、大変な事になったわ!」

 加那弥(かなみ)が凄い勢いで、彼女に走り寄って来た。

「加那弥一体どうしたの」

「とにかく、とにかく、本当に大変なのよ!!」

 加那弥は彼女の肩を揺らしながら言った。

「加那弥、落ち着いて訳を話して」

 加那弥は、少し息を整えてそれから彼女に話した。

「昨日、住吉仲皇子(すみのえのなかつ)黒姫(くろひめ)様の所に行かれたみたいなの」

「え、皇子が黒媛様の元に?」

「それで、実は住吉仲皇子は、前々から黒媛様を好いていたらしく、無理矢理黒媛様をご自分のものにされてしまったの。そしてこれから去来穂別皇子(いざほわけのおうじ)を討つつもりらしいのよ」

「え、住吉中皇子が……そ、そんなの嘘でしょ!」

「嘘じゃないわ。今皇子の兵達が、去来穂別皇子のいる宮に行ってて、間もなく宮が取り囲まれるわ」

 佐由良はその話を聞いた瞬間、頭が真っ白になり、その場に座り込んでしまった。

 確か以前、住吉仲皇子に好きな人がいると聞いていたが、それが黒媛だったのだ。

「住吉仲皇子、どうして」

 佐由良はその場で泣き出してしまった。

 その様子を見ていた加那弥、彼女をなだめるかのように言った。

「とりあえず、私達にはどうする事も出来ないわ。しばらく様子を見ましょう」


 その後の知らせで、去来穂別皇子はすでに宮を脱出して、石上神宮(いそのかみじんぐう)へ逃げているとの事だった。そうなって来ると住吉仲皇子の方も段々と不利になってくる。

(私達はこれからどうなるの……)

 佐由良はただただ祈るばかりだった。