「そうだな。単に気に入る娘が今までいなかったのが本当かもな」
「じゃぁ、なぜ佐由良は違ったんですか?」
そう言われると、さすがに阿止里《あとり》も気になる。佐由良も確かに綺麗だが、それだけで皇子にここまで気に入られるものだろうか。
「うーん、あいつの場合は、妃にしないと手に入らないと思ったからな。元々あいつは、俺の弟も気に入ってたんで」
「え、そんな理由だけで妃に?」
阿止里は驚きを通り越して、呆れた。そしてこれにはさすがに受けたのか、ちょっとクスクス笑いだした。
(こいつも稚田彦《わかたひこ》と同じだな。なぜそんなに受けるんだ)
「それと、そんな訳なんで、俺は佐由良以外に妃を娶るつもりは無い」
「でも皇子は皇太子ですよね?妃が1人で大丈夫なんですか?」
阿止里は思った。この皇子は本当に不思議な人だと。佐由良を妃にする理由もさる事ながら、他の妃は娶らないとまで言っている。自分のようにいち豪族ならまだしも、この人は大和の皇子だと言うのに。
「まぁ言い方を変えれば、それぐらいの覚悟がないと、佐由良を振り向かす事が出来なかったと言う事だ」
瑞歯別皇子《みずはわけのおうじ》も自分で言いながら、だんだん恥ずかしくなってきた。
そんな彼を見ながら、阿止里もだんだんこの皇子に興味が沸いてきた。
だから佐由良もこの皇子に惹かれたのかもしれない。
それからしばらくは、また狩りに没頭した。
それで狩りも一段落して、皆宮に戻ろうとしていた時だった。
今度は瑞歯別皇子が阿止里に話しかけて来た。
「俺もお前に聞きたい事がある。何故佐由良が大和に行く事になった時に、止めなかったんだ」
それを聞いた阿止里は足を止めた。そして
凄く悔しそうにしながら、彼は言った。
「あの時、佐由良の大和に行きが決まったのは本当に急で、その事を知らされたのもごくわずかの人達だけでした。
俺も知ったのは2日前だった。多分俺が知ったら反対すると乙日根《おつひね》様も思われたんでしょうね」
(なる程、乙日根も阿止里の気持ちは気付いていたと言う訳か)
「それでお前は黙ってそのまま見送ったと言う訳か」
それを聞いた阿止里は少しカッとして、皇子に言った。
「いいえ、すぐさま乙日根様の元に行き、訴えました。佐由良を大和に行かせないで欲しいと。だがどれだけ俺が訴えた所で、どうする事も出来なかった。出発は2日後だ、大和にどう言い訳するのかと」
阿止里はそう言い終えると、表情を歪めた。それぐらい悔しかったのだろう。
(なるほどな。これが吉備での真相か。だから阿止里は大和まで来て、佐由良を連れ戻す方法はないかと探りたかったのかもしれない)
「ちなみに佐由良が大和に来て、あいつの父親が誰か分かった。
佐由良の父親は物部伊莒弗《もののべのいこふつ》と言う人物だ。伊莒弗も乙日根には気づかれていた可能性があると言っていた」
「な、何だって。佐由良の父親!」
阿止里はその事を聞いてかなり驚いた。元々佐由良が族内で酷い扱いを受けていた理由の1つが彼女の父親が誰か分からなかったからだ。
だが、ここまで来ると阿止里も乙日根の意図する事が理解出来てきた。
「やはり、佐由良は大和に来るべくして来たと言う訳ですね」
阿止里は余りの事に、さすがにもう佐由良を吉備に戻すのは不可能だと思った。
彼女の幸せを考えるなら、大和にいた方が良いと思えたからだ。
「でも、まぁ、俺がお前の立場だったら、それでも動いたかもしれないな」
ボソッと瑞歯別皇子は阿止里に言った。
そして、その一言が思いのほか阿止里の心に刺さった。
そして皇子には達は宮に戻って言った。
「じゃぁ、なぜ佐由良は違ったんですか?」
そう言われると、さすがに阿止里《あとり》も気になる。佐由良も確かに綺麗だが、それだけで皇子にここまで気に入られるものだろうか。
「うーん、あいつの場合は、妃にしないと手に入らないと思ったからな。元々あいつは、俺の弟も気に入ってたんで」
「え、そんな理由だけで妃に?」
阿止里は驚きを通り越して、呆れた。そしてこれにはさすがに受けたのか、ちょっとクスクス笑いだした。
(こいつも稚田彦《わかたひこ》と同じだな。なぜそんなに受けるんだ)
「それと、そんな訳なんで、俺は佐由良以外に妃を娶るつもりは無い」
「でも皇子は皇太子ですよね?妃が1人で大丈夫なんですか?」
阿止里は思った。この皇子は本当に不思議な人だと。佐由良を妃にする理由もさる事ながら、他の妃は娶らないとまで言っている。自分のようにいち豪族ならまだしも、この人は大和の皇子だと言うのに。
「まぁ言い方を変えれば、それぐらいの覚悟がないと、佐由良を振り向かす事が出来なかったと言う事だ」
瑞歯別皇子《みずはわけのおうじ》も自分で言いながら、だんだん恥ずかしくなってきた。
そんな彼を見ながら、阿止里もだんだんこの皇子に興味が沸いてきた。
だから佐由良もこの皇子に惹かれたのかもしれない。
それからしばらくは、また狩りに没頭した。
それで狩りも一段落して、皆宮に戻ろうとしていた時だった。
今度は瑞歯別皇子が阿止里に話しかけて来た。
「俺もお前に聞きたい事がある。何故佐由良が大和に行く事になった時に、止めなかったんだ」
それを聞いた阿止里は足を止めた。そして
凄く悔しそうにしながら、彼は言った。
「あの時、佐由良の大和に行きが決まったのは本当に急で、その事を知らされたのもごくわずかの人達だけでした。
俺も知ったのは2日前だった。多分俺が知ったら反対すると乙日根《おつひね》様も思われたんでしょうね」
(なる程、乙日根も阿止里の気持ちは気付いていたと言う訳か)
「それでお前は黙ってそのまま見送ったと言う訳か」
それを聞いた阿止里は少しカッとして、皇子に言った。
「いいえ、すぐさま乙日根様の元に行き、訴えました。佐由良を大和に行かせないで欲しいと。だがどれだけ俺が訴えた所で、どうする事も出来なかった。出発は2日後だ、大和にどう言い訳するのかと」
阿止里はそう言い終えると、表情を歪めた。それぐらい悔しかったのだろう。
(なるほどな。これが吉備での真相か。だから阿止里は大和まで来て、佐由良を連れ戻す方法はないかと探りたかったのかもしれない)
「ちなみに佐由良が大和に来て、あいつの父親が誰か分かった。
佐由良の父親は物部伊莒弗《もののべのいこふつ》と言う人物だ。伊莒弗も乙日根には気づかれていた可能性があると言っていた」
「な、何だって。佐由良の父親!」
阿止里はその事を聞いてかなり驚いた。元々佐由良が族内で酷い扱いを受けていた理由の1つが彼女の父親が誰か分からなかったからだ。
だが、ここまで来ると阿止里も乙日根の意図する事が理解出来てきた。
「やはり、佐由良は大和に来るべくして来たと言う訳ですね」
阿止里は余りの事に、さすがにもう佐由良を吉備に戻すのは不可能だと思った。
彼女の幸せを考えるなら、大和にいた方が良いと思えたからだ。
「でも、まぁ、俺がお前の立場だったら、それでも動いたかもしれないな」
ボソッと瑞歯別皇子は阿止里に言った。
そして、その一言が思いのほか阿止里の心に刺さった。
そして皇子には達は宮に戻って言った。