佐由良が思わず離れようとしたが、皇子に強く引き寄せられ、体を絡ませて来られた。
そしてさらに口付けもだんだん強引なものへと変わっていった。

そんな中、ふと佐由良は昨日の稚田彦《わかたひこ》との会話を思い出した。
(今だったら、少し大胆になっても……)

佐由良は思わず皇子の首に自分の腕を回した。そして自からも彼の唇を求めた。

それに気を良くした皇子は、さらに佐由良を自分に引き寄せた。

こうして、暫く2人は互いに求め会うようにして口付けを交わした。


その後時間が少し立ってからようやく落ち着き、2人は唇を離した。
そして瑞歯別皇子《みずはわけのおうじ》は優しく佐由良を抱きしめた。

「はぁー、お前がこんなに大胆になるのは珍しいな。そんなに良かったか」

「べ、別なそんなんじゃ!今日は偶々です……」

そう言って佐由良は皇子の胸に顔を埋めた。
まだ先程の口付けの余韻が残っていて、ちょっと顔を赤くしていた。

そんな彼女の心境を悟って、皇子は頭を軽く撫でてやった。



その時だった、誰かの足音がした。

瑞歯別皇子は佐由良を自分の胸の中に隠したまま、その先を見た。

そこには1人の青年が立っていた。
それは何とあの阿止里《あとり》だった。どうやら周りの村を見終え、宮に戻ってきていたようだった。

佐由良も相手が阿止里と気付き驚きを隠せなかった。

だがそんな状況の中、瑞歯別皇子は平然として答えた。

「あぁ、済まない。ちょっと嫌な場面を見せてしまったな」

阿止里は余りの事に何も言葉を発しようとしなかった。

「まぁ、俺達の事は宮の皆も薄々感付いてるので、特に問題はないが」

瑞歯別皇子はそう言いながらも、佐由良が動揺しないよう、優しく撫でていた。

「べ、別に、俺は気にしてないです。それじゃあ失礼します」

そう言って阿止里はその場から逃げるように立ち去って行った。

「あ、阿止里!」

佐由良は思わず阿止里の後を追おうとしたが、瑞歯別皇子に止められた。

そして、彼女を思いっきり抱きしめた。

「佐由良、お願いだ。あいつを追いかけないでくれ」

(わ、私は……)

佐由良はどうする事も出来ず、そのまま皇子の抱きしめられていた。