その後夕方になり、宴の方が始まった。
阿止里《あとり》はとても楽しそうに宴に参加していた。

そのとなりには瑞歯別皇子《みずはわけのおうじ》が座っていた。一応それなりに会話はしているようだが、そんなに打ち解けて話してる感じではなさそうだった。

そんな様子を佐由良は遠くから見ていた。

「皇子と阿止里は同い年だから、もう少し打ち解けてくれるかと思ってたのに。そう簡単にはいかないものね。
私的には2人には仲良くなって欲しいけど」

佐由良からしたら、2人は未来の夫と、従兄弟という構図だ。
ただもしかしたら、今日の阿止里の態度が原因かもしれないとも思った。

「皇子、もうしかして怒ってるのかな?」


そうこうしてる内に、宴はあっという間に終了となった。

佐由良が部屋の隅で片付けをしていると、阿止里がやって来た。

「佐由良、お疲れ様。まだ仕事続いてるのか?」

佐由良は思わず振り返ると、そこに阿止里が立っていた。どうやら他の連れはいないようで、今は彼1人のようだ。

「あ、ごめんなさい。まだ仕事が終わらなくて」

彼女はそう言いながら、仕事を続けた。

(阿止里って、こんなに積極的に話しかけてくる子だったかな?以前とはちょっと違う感じがする)

「あぁ、ごめん、邪魔して。じゃあ俺もそろそろ用意されてる部屋に行くから。また明日な」

そう言って、あっさりと彼は佐由良の元から離れていった。

それから尚も佐由良は片付けをして、仕事が終わった頃は、すっかり暗くなっていた。

そして自分の部屋に戻ろうとしたその瞬間、「佐由良」と誰かに呼ばれた。

佐由良が振り返ると、そこには稚田彦《わかたひこ》が立っていた。

(え、稚田彦様がどうして?)

「佐由良、ごめん。ちょっと君に話しておきたい事があって……」

「話したい事ですか?」

稚田彦と佐由良はとりあえず、少し人目の付かない所に移動した。

「本当はこんな時間に、君と2人きりになるのは余りしたくないんだけどね。誤解されそうだし」

稚田彦はかなりの申し訳なさそうにして答えた。きっと瑞歯別皇子を気にしているのだろ。

「稚田彦様が、それでも来られた訳ですし、何かあったんですね」

「あぁ、そうなんだよ。そんな大袈裟な事ではないんだが。実は瑞歯別皇子の事なんだけど……」

(瑞歯別皇子?)

稚田彦からの話しなので、瑞歯別皇子絡みなのかとは薄々思っていた。
だが特に最近皇子に何か問題があったようには思えない。

「瑞歯別皇子がどうかしたんですか?」

佐由良は不思議そうにして、首をかしげた。

「実は……佐由良、君は気付いていなかったと思うが、今日の皇子はかなり機嫌を悪くされている」

「え、皇子が?」

(先程の宴の場でも、確かにそこまで愛想が良くはなかったけど)

「いやー、皇子が君の親戚の阿止里殿に対して、凄い嫉妬していてね。君も薄々気付いているとは思うが、皇子はああ見えて結構嫉妬深い」

「あぁ、そう言えばそうですね」

佐由良は今日の1日の阿止里と瑞歯別皇子の事を思い返してみた。
確かに皇子はいつもよりも言葉数が少なかった。逆に阿止里はかなり積極的だった。

(やっぱり皇子気にしてたんだ……)


「だから、このままにしていたら、いつ皇子の嫉妬が爆発してもおかしくない。なので佐由良の方からも何とか皇子をなだめて貰えないだろうか?」