(これは一体どういう事だ。コイツもしかして、佐由良の事が……)

そんな皇子と阿止里のやり取りを横で稚田彦《わかたひこ》も聞いていた。

(あぁーやっぱりな。もしかしたらこんな展開もあるのではと予想していたが……何とも厄介な事になりそうだ。今回の訪問、もしかしてこの阿止里《あとり》と言う青年が希望したのでは?)


瑞歯別皇子《みずはわけのおうじ》も、とりあえず表情に出さずに続けて言った。

「今日はそなた達の為に、簡単な宴を用意する事にした。何分吉備からの訪問は滅多にないのでな。大王からも十分にもてなしてやって欲しいと言われてる」

「そうですか。それは有り難うございます」

阿止里も何とか冷静さを取り戻して、答えた。

そんな彼の様子を見て瑞歯別皇子は思った。
(ふーん、これはさすがに会わせない訳にはいかないか)

「また時間を見て、佐由良にも会わせよう。彼女もきっとお前と会えたら喜ぶだろうし」

それを聞いた阿止里はとても嬉しそうにして言った。

「本当ですか!瑞歯別皇子。有り難うございます」

阿止里はもう満面の笑みを浮かべていた。余程佐由良に会いたかったのだろう。

だがこんな展開を、瑞歯別皇子が素直に喜べる訳もなく、彼の表情は固かった。
そして何とも変な胸騒ぎがしていた。

(本当なら佐由良には余り会わせなくはないが、従兄弟同士とも聞いている。何とか耐えるしかないか)

そんな事を皇子が思っていると、稚田彦も皇子の心境がとても読み取れるように分かった。

(これは、皇子的には内心かなり面白くないだろうな。この阿止里と言う青年は気付いていないだろうが、皇子の表情がかなり固くなっている)

そして皇子達は、阿止里と彼の数名の使者だけを連れて部屋を出て宮の中を案内する事にした。