そして数日後。

「とりあえず佐由良の誤解は解けたが、あの御津日売(みつひめ)って女、本当にややこしい事をしてくれたな。これは1度はっきりさせておかないと」

 そして瑞歯別皇子(みずはわけのおうじ)は、その日、酒の付き合いをさせる理由で御津日売を部屋に呼んだ。

 御津日売は皇子からの誘いとあって、かなりご機嫌で皇子の部屋へと向かった。

「御津日売、済まないな。ちょっと酒の相手をして貰おうと思って」

「いえいえ、こちらこそ。皇子のお相手を出きるなんて、とても光栄ですわ」

 そして御津日売は慣れた手付きで、瑞歯別皇子にお酒を勧めた。

 だがその時も、御津日売は皇子にかなり歩み寄っていた。

「まぁ、せっかくだ。お前も酒を飲め」

 そう言って皇子は、御津日売に酒を酌んで勧めた。

 御津日売は笑みを浮かべて、有り難くお酒を頂だいした。

「でも、瑞歯別皇子は本当に素敵な方ですね。強くて凛々しくて。宮の娘達が憧れるのが何となく分かるような気がします」

 そしてうっとりとした目で彼女は皇子を見た。

「別に、そんな事は気にしてないさ。俺は妃になる女性しか愛する気はないからな」

「まぁ、そんなんですね。その女性はさぞ幸せでしょうね。何か妬けますわね」

「何だ、お前も妃になりたいのか」

 瑞歯別皇子は彼女の目を見て言った。

「瑞歯別皇子……」

 御津日売はそっと皇子の手に触れた。

「こうして皇子の宮にお仕えさせて頂き、恐れ多い事だとは思ってます。でも私はずった皇子をお慕いしております」

そして少しうるっとさせた目で皇子を見つめ、さらに自分の体を皇子にくっ付けて来た。

「御津日売……」

(ここまで来たら、皇子が落ちるのもあと少しだわ)

 そして瑞歯別皇子は彼女の顔に自分の顔を近付けた。
 そして互いの唇が触れる直前で、彼は言った。

「ふーんさすがだな、御津日売。こうやって男を口説き落とすのか」

(え、何ですって!)

 皇子はそう言って、彼女から離れた。

「み、瑞歯別皇子?」

「御津日売、悪いが俺はあんたを妃にするつもりはさらさらない」

 瑞歯別皇子、少し怖い笑みを浮かべて言った。

「お、皇子はそれはどう言う事ですか!」

「俺は自分が愛する女性を妃にするつもりだ。なのに愛する気のない女性を妃になどするはずがないだろう。それに俺は妃の族の力など必要とはしていない」