その日の夜、瑞歯別皇子(みずはわけのおうじ)が久々に夕飯を佐由良と一緒に食べようと思い、彼女を部屋に呼んだ。

 だがどういう訳か佐由良の表情がやけに暗かった。

「佐由良、お前一体どうしたんだ?そんな暗い顔をして」

 皇子がそう話しかけても、佐由良の表情はいっこうに変わらない。

(一体どうしたんだ?)

 瑞歯別皇子は思わず佐由良に歩み寄って、彼女に言った。

「おい、佐由良。本当にお前どうしたんだ?」

 皇子には何が何だかさっぱり分からない。

 佐由良は真剣に自分を見つめる皇子に対して、思わずポロポロと涙を流し出した。

「さ、佐由良。本当にどうしたんだ」

 彼はそう言うなり佐由良を抱き締めた。そしてそのまま頭をなでて、彼女を落ち着くのを待った。

 それからしばらくして、佐由良も何とか落ち着きを取り戻した。

「佐由良、ゆっくりで良いから、何があったのか話してくれないか」

 瑞歯別皇子は優しく彼女に言った。

 それを聞いた佐由良は、とても言いにくそうにしながら言った。

「今日聞いたんです。その、男の人は顔が綺麗で、ふくよかな女性らしい体の人が好きだと。そうじゃないと、そのうち飽きて捨てられるって……」

 それを聞いた瑞歯別皇子はとても驚いた。

「はぁ!!一体誰がそんな事を言ったんだ!」


 佐由良はさらに言いにくそうにしながら、「今日御津日売(みつひめ)から……」と言った。

「あの女か!余計な事を話しやがって!!」

 瑞歯別皇子は余りの事に、ただただ呆れた。

「佐由良。そんな事、お前が気にする事じゃない」

 そう言って、皇子を佐由良の頭をポンポンと軽く叩いた。

「でも、本当は皇子もそう言う女性の方が良いとは思わないんですか?」

「うぅ……ま、まぁ。確かにそれに越した事はないが」

(やっぱりそうなんだ……)

 佐由良はしょぼりとした。


(あぁ、本当に面倒臭いな)

 瑞歯別皇子は佐由良を自分に向けた。そして一呼吸置いてから言った。

「良いか佐由良、良く聞けよ」

「は、はい」

「俺は今のお前だから好きなんだ。別に容赦や体がどうこうじゃない」

(容赦や体がどうこうじゃない?)

「だいたい、お前自身だって魅力はあるんだ。お前は気付いてないかもしれないが、お前を抱く時、俺の前で凄い色気のある表情になるんだぞ。それを見る度に、歯止めが効かなくなって、それでついついやり過ぎてしまう……」

「え、そんな事って」

 それを聞いた佐由良は凄い恥ずかしくなってしまう。

 だがそれ以上に、瑞歯別皇子も凄い顔を赤くしていた。

「第一、俺はお前を妃にすると言ってんだぞ。だから絶対に捨てたりなんかしないさ」