その一方で瑞歯別皇子(みずはわけのおうじ)達は、やっと政り事の話し合いが終わった。
 その為家臣達が皇子の部屋を後にし、彼は自身の部屋で雑務をしていた。

 そこに「皇子お飲み物をお持ちしました」と声が聞こえて来る。

(うん?この声は佐由良か)

 皇子の予想通り、佐由良が飲み物を部屋に持ってやって来た。

「あぁ、佐由良悪いな」

「いえ、これも仕事ですし」

 そう言って佐由良は皇子の横に飲み物を置いた。

「本当なら一緒に飲みたい所だが、残りの雑務を終えないといけない。その後は少し馬で周りの村を見て回ろうと思ってる」

「皇子は本当にいつもお忙しくされてますね」

 佐由良はそう言って、にっこりと微笑んだ。

 そんな佐由良を見て瑞歯別皇子は思った。

(やっぱり佐由良の笑顔の方が見ていて良いな。先程の御津日売(みつひめ)はどうも薄気味悪い)

「うん、皇子どうかされましたか?」

「あ、いや何でもない」

(皇子......どうしたんだろう?)

「では、私はこれで失礼しますね」

 そう言って佐由良は立ち上がり、部屋の外に出ようとした。

 すると瑞歯別皇子は慌てて立ち上がり、部屋の出口の所で佐由良を止めた。

 そして後ろから佐由良を優しく抱き締めた。

「ちょ、ちょっと皇子。こんな所誰かに見られたら」

「別に構うもんか。どうせ、宮の奴らは皆俺達の事には気付いてる」

(それは、皇子がバレやすい態度を取るからでしょう)

 そして皇子は、後ろから彼女に口付けた。

 こうなると佐由良もどうする事も出来ず、そのまま皇子の口付けに素直に応えた。

 そしてしばらくして、皇子は佐由良から唇を離した。

(やっぱり俺はコイツが良い)

「もう、皇子。お願いですから、こう言った事は程々にして下さい。私のこの後の仕事にも差し支えます」

「分かった、分かった。じゃあ続きは今日の夜にでもするか」

 そう言うと皇子は佐由良の頬に軽く口付けた。

(皇子、また何て事を!!!)

 佐由良は思わず顔を赤くした。

「もう皇子ったら……とりあえず、私は戻りますね」

 そう言って、佐由良は顔を赤くしたまま、その場を後にした。

 そんな佐由良を見送った皇子は「はぁーやれやれ。さぁー仕事に戻るか」と言って部屋の中に戻って行った。


 だが丁度その時、そんな2人の事を少し離れた所で偶然見ていた者がいた。それはあの御津日売だった。

「ちょっとまって。今のって……皇子とあの吉備の娘が。信じられない」

 御津日売はかなりの衝撃を受けた。

「まぁ、良いわ。これから皇子を口説き落とせば良いだけの事。
あんな小娘が相手じゃ、皇子もそのうち物足りなくなって、飽きるでしょうし」

 御津日売はそう言って、妙な笑みを浮かべながらその場を立ち去った。