「ただその御津日売(みつひめ)、かなりの美貌を持った姫らしく、瑞歯別皇子(みずはわけのおうじ)を誘惑して、何とか妃に持っていこうとしてるって噂よ」

「え、瑞歯別皇子を誘惑……」

 佐由良は一瞬固まった。

「あ、それは聞いたわ。宮の男達も皆、その姫にすっかり魅了されたって」

 伊久売(いくめ)も続けて言った。

(そんな綺麗な姫だったら、さすがの瑞歯別皇子も……)

 佐由良はその場で言葉を無くして俯いてしまった。

 胡吐野(ことの)と伊久売もそんな彼女を見て、ハッとした。

「だ、大丈夫よ、佐由良。今までどんなに綺麗な娘が来ても皇子は全く見向きもされなかったわ。見た目だけで惑わされるような人じゃないから」

「そうよ、佐由良。皇子は佐由良しか見てないって」

(佐由良と皇子の関係について、佐由良は特には話して無かった。だが皇子の態度が余りに分かりやすく、結局宮内ではバレバレだった)

「そ、そうよね。皇子はそんな事無いって私は信じるわ」

「そうそう、その意気よ。佐由良」

 胡吐野がそう言って佐由良を励ました。

 そうして3人が話してる丁度その時だ。伊久売が遠くの方を歩いてる女性にふと目をやった。

「あ、あれが御津日売だわ」

 思わず佐由良と胡吐野も、目を向けた。

(あの人が御津日売。凄い綺麗だし、体つきもとってもふくよかで女性らしい)

 佐由良から見ても、御津日売はかなりの美貌を持った娘に映って見えた。

「そうか、今日は初めて瑞歯別皇子に挨拶に行くんだわ」

 胡吐野がそう言った。

 御津日売も佐由良達に気がついたらしく、軽く会釈をして来た。

(瑞歯別皇子、本当に大丈夫よね……)