佐由良と瑞歯別皇子(みずはわけのおうじ)が初めて会った丘の上での再会を果したあの日から、2週間が経過していた。

 この日皇子は昼時に佐由良を部屋に呼んで、のんびり過ごしていた。

 一応彼女から妃になる事の承諾は得たが、本人からまだ暫くは采女として働きたいとの希望だった。
 その為、意外に以前と余り変わらない日常を過ごしていた。

「はぁー、今日はのどかな日だな」

 寒かった冬も過ぎて、日中の気温もだんだんと上がって来ていた。

「ふふ、本当にそうですね。私はどちらかと言うと夏の方が好きですが」

 瑞歯別皇子は、彼女が夏を好きだとは意外だなと思った。

「何で、夏なんだ?」

「はい、私は元々吉備の生まれの為、ずっと瀬戸内の海を見て育って来ました。夏になると海にも入れますし、あの太陽に照らされた瀬戸内の海が好きだったので」

「なる程。そう言う事か」

(瀬戸内の海か。今後行く機会が出来たら見てみたいものだな)

 皇子はそう言うと、ふと佐由良の膝の上に寝そべった。佐由良の膝はとても気持ちが良く、最近よく皇子はそうしていた。

 佐由良もそれに対して特に嫌がる事もなく、皇子の好きにさせていた。

「政り事の方は順調なんですか?」

 佐由良は皇子に聞いた。

「あぁ、これと言って問題はない」

 彼はそう言うと、思わず佐由良の髪の先に触れた。皇子にとってこの一時が、今最も落ち着く時間だった。

 そして暫くすると佐由良が言った。

「では皇子、私はそろそろ仕事に戻りますね」

「あぁ、もうそんな時間か」

 瑞歯別皇子は佐由良の膝の上から起き上がった。

「佐由良、余り根詰めるなよ」

「はい、分かってます」

 そう言って、どちらからともなく口付けを交わした。

「では、行きますね」

 そう言って、佐由良は立ち上がると皇子の部屋を後にした。