稚沙(ちさ)はそんな彼女を見て、とりあえず自分が今回の状況を彼に説明することにした。

 すると彼の方も、薄々は感づいていたようで、特に驚きはしなかったみたいだ。

椋毘登(くらひと)はへんな所で、頭が固いというか、真面目すぎるんですよね。でもまあ皇女が相手ってのは、さすがのあいつでも無理があるでしょうし」

 蝦夷(えみし)にそういわれて、糠手姫皇女(ぬかでひめのひめみこ)は思わずうつ向いてしまう。

 そんな彼女を見て、稚沙は思わず蝦夷を睨み付けた。今の彼女の気持ちは、稚沙にも痛いほど分かる。

「あ、悪い。別に悪気はなかったんだが……あ、そうだ!それなら気分転換に3人で馬に乗ってちょっと外に出てみないか?」

「え、この3人で?」

 稚沙がそういうと、糠手姫皇女と2人で思わず互いに顔を見合わせる。

 彼は恐らく、いつも何かあると馬で外をよく駆け回っているのだろう。

「まぁ、それは楽しそうね」

 糠手姫皇女は蝦夷の提案を聞き、思いのほか乗り気なようである。

「よし、そうしよう!稚沙の仕事に関しては、俺から上手く話をつけてやるよ」

 彼はまたしても、稚沙の仕事をうまくかけあってくれるつもりでいるようだ。

(蝦夷って、本当にこういうの好きよね……)

「だが皇女が外を出歩くのも余り良くないか……それなら稚沙、悪いが彼女に服を貸してやってくれないか?その方が糠手姫皇女も気が楽だろうし」

 それを聞いた稚沙は、そこまでやるのかとちょっと驚いてしまう。だが確かにその方が、糠手姫皇女も羽を伸ばせて良いかもしれない。

 そしてその後、蝦夷が炊屋姫(かしきやひめ)に直接話しをしてくれた。すると炊屋姫も、糠手姫皇女の良い気分転換になるのと、稚沙が付き添うなら構わないとのことだった。

 さらに蝦夷の馬だけでは3人乗れないので、小墾田宮(おはりだのみや)の馬をさらに1頭貸して貰えることになった。

 そこで蝦夷の馬には彼と糠手姫皇女が一緒に乗り、小墾田宮から借りた馬には稚沙が1人で乗る。


 こうして3人は、馬に乗って外へと駆け出していった。