稚沙(ちさ)はふと目を閉じて考えてみる。前世での相手は一体どんな人だったのだろう。
 彼女が思うに、とても優しく自分に微笑みかけてくれる、何となくそんな人のような気がしてきた。

(でもそんな人、今の私のまわりには全く心当たりがない。まだ相手に出会ってないのか、それとも単に自分が気付いてないだけ?)

 それから稚沙は、ふと目をあける。相手が誰かは分からないが、それでもとてもすっきりとした気分になった。

「妹子殿、素敵なお話をして下さって、本当に有難うございます。これで私も決心がつきました。これからは、自分の本当の相手となる人を見つけたいと思います!」

 それを聞いた小野妹子(おののいもこ)もとても安心したようで、思わず胸をなでおろした。

「えぇ、そうですね。あなたのことを本当に必要とする人は、きっとこれから現れるはずです。もしかすると私は、今日この話しをするために、あなたと出会ったのかもしれませんね」

「そうですね。私も何となくそんな気がします!」

 稚沙も少し嬉しくなって、そう返事をする。今まで抱えていた気持ちから解放され、また心新たに頑張っていけそうな気がしてきた。

(でもそのためには、もっと自分自身が頑張って成長しなきゃいけない。今度こそ相手に振り向いてもらうためにも)


「では、私はそろそろ失礼させて頂きます。まだやり残していることもあるので」

 彼はそういってから、そのまま立ち上がった。

 宴が終わったといっても、恐らく彼自身の客人への対応はまだ続いているはずだ。今はちょうど少し休憩で、ここにやってきたのだろう。

「はい、今日は本当に有り難うございました」

 稚沙も彼につられて立ち上がると、そう感謝の言葉を彼に伝える。

「こちらこそ、今日あなたとこうやってお話ができて、本当に良かったです。ではまた別の機会にお会いしましょう」

 小野妹子はそう稚沙にいうと、そのままその場を去っていった。

(私も1日も早く立派な女官になって、そして運命の人と出会いたい……でもその相手って、いつ現れるんだろう?早く出会えると良いな)

 彼女はそんなことを考えながら、自分も住居に戻ることにした。辺りはすっかり夕方になっている。うかうかしていると直ぐに夜になってしまうので、急いで戻った方が良さそうだ。

 こうして、彼女もまた自身の住居へと戻っていった。