すると稚沙(ちさ)椋毘登(くらひと)を見ながら、少し照れくさそうにしながら話し出した。

妹子(いもこ)殿がいうに、私と厩戸皇子(うまやどのみこ)はきっと一緒になる縁ではなかったのだろうといわれたの。きっと、私の相手は別にいるって」

「へぇ、妹子殿がそんなことを?確かに人と人との間には縁はあるんだろうけど」
 
 椋毘登も何とも意外な話しだなと思った。

「前世に縁で結ばれていた人同士は、今世でも廻り合い、また出会うんですって。私達には前世の記憶はないけど、魂には記憶がちゃんと刻まれている。だから私の運命の人は別に必ずいるって!」

 稚沙はそういって、椋毘登の顔を真っ直ぐ見つめた。

 小野妹子(おののいもこ)の話が本当なら、自分と椋毘登も前世で知り合っていたのではないのだろうか。

「ふーん、その話からいくと、俺達も前世で出会っていたということになるのか?」

 椋毘登はそういうと、稚沙の頬に優しく手を添えた。

「うん、そうだったら良いなと思ったの。魂に刻まれた記憶を辿って、またあなたと巡り会えたって……」

 稚沙は満面の笑みを見せて、彼にそういった。

「確かに、そうかもしれないな」

 そういって椋毘登は、稚沙に優しく口付けた。

(もしかすると、昔にもこんな風に君と……)

(きっと、私たちも前世では……)


 それから椋毘登は、彼女から唇を離すと続けていった。

「確かに以前の記憶はないし、それがどんないにしえの時代なのかも分からない。でもそれでもきっと、俺は稚沙を探していたと思う」

 それから2人して、少し照れくさそうにしながら、クスクスと笑った。

「でもそれなら私達、前世はどんな立場で出会っていたのかしら?椋毘登ならそうね……意外に皇子だったりして?」

「はぁ!?皇子だって。それは勘弁だね。大和の皇子だなんて絶対に嫌だ。何か厩戸皇子みたいで……」

 椋毘登は思わずムスッとした。

(椋毘登ったら、厩戸皇子にも嫉妬していたの?)

「でも椋毘登が皇子なら、私は皇女かしら?」

 稚沙はふとそんな自分を想像してみた。それはそれで面白そうだ。

「まぁ、お前は炊屋姫に憧れてたよな?というか、この話しはもう終わりにしよう」

 そういって椋毘登はその場で立ち上がった。そして彼女に手を差し出してくる。

「じゃあ、そろそろ戻ろう。余り長居すると、宮の人達が心配するぞ?」

 稚沙もそれを聞いて、それもそうだなと思った。

「うん、分かった」

 彼女はそういうと、彼の手につかまった。

 そして彼の手に支えられて立ち上がり、そのまま馬を置いてる場所まで向かう。

 それから2人は馬に乗ると、すぐさま走り出して、そのまま小墾田へと戻っていった。


 その道中に稚沙はふと和歌を読んだ。


秋深し、想いもつのり、愛しきみ、
心思えば、まこと嬉しき

(秋が深まるように、愛しい人への想いが深くなる。そう思えることが、本当に嬉しい)



 こうしてここ飛鳥の時代に、稚沙と椋毘登は偶然にも出会うことになった。

 小野妹子の話すように、互いの運命と記憶を巡り、2人はふたたび同じ時代に生まれたのだろうか。

 だがその真相は、今の2人には分からないままである。







(また、同じ時代に私達は生まれ変わる。


ねえ皇子、そうでしょう?


だから、また私を見つけてね。


何度生まれ変わっても、私達はきっと出会うはずだから……)



     ー ー ー END ー ー ー