隋へ向かった人達を見送ったのち、その場で解散となり、そして各自それぞれで散り散りに帰っていくこととなる。
 
 稚沙(ちさ)椋毘登(くらひと)は、彼の提案で少し寄り道して帰ろうということになった。

 そして2人はそのまま小墾田宮(おはりだのみや)の近くの草原にまたやって来た。
 最近この草原は、2人で会う時に時々使っている場所である。

「はぁー、妹子(いもこ)殿達の見送りも無事に出来たし、本当に良かった。椋毘登、今回は付き合ってくれて本当に有難う」

 小野妹子(おののいもこ)達の見送りもでき、こうして今は椋毘登とも一緒にいられて、稚沙はすごく嬉しいなと思う。

 だがその一方で、椋毘登は少しふて腐れていた。

「でも妹子殿は、稚沙に対して馴れ馴れしかったよな。何か腹が立つ……」

 稚沙はそんな彼を見て、椋毘登は意外にちょっと嫉妬しやすいのかもしれないと思った。

「もう、椋毘登ってば。妹子殿とはちょっと話をしていただけなのに」

 彼女も初めは、本当に自分と一緒になる気があるのかと心配もしていた。でも今の彼のこの反応だと、それも大丈夫そうな気がしてくる。

 稚沙はそう思うとちょっと嬉しくなり、思わず椋毘登の方にもたれた。

「でも、椋毘登に好いてもらえてたなんて、本当に意外だったな。ねぇ、いつから私のことが好きだったの?」

 稚沙は少し上目使いで、彼の顔を見上げた。

「え、いつからって……」

 彼女にそういわれて、椋毘登は急に顔を赤くした。

「いや、はっきりいつかといわれると、中々難しいかな……でも、お前を嫁に貰いたいなんていうやつ、この先きっと俺ぐらいだろ?」

 彼はまた意地悪くして、彼女にそういった。

(もう、椋毘登ったら。またそんなことを……)

「別に良いわよ。それなら、これからうんと美人になって、絶対に椋毘登を見返してやるんだから!」

「へぇ、それは楽しみだな。じゃあ期待して待っているよ」

 そういって彼は、今度は稚沙に対し無邪気に笑った。

 そんな彼を見て、稚沙はこれが本来の彼なのではないかと思った。

(まぁ、意地悪なのも相変わらずだけど)

 稚沙はそんな彼を見ていて、ふとあることを思い出した。

「そういえば前に、これは妹子殿と話していた時の事なんだけど?」

「え?」

 彼女は何となく、前に小野妹子から聞いた話を彼に聞いて貰いたくなった。

「その時に私は、厩戸皇子の話をしていたの。そしてその際に彼のことを諦める事にしたといったら、彼は人の運命の話をしてくれて」

「え、運命の人……それは一体どういう意味だ?」

 彼も珍しく彼女の話しに興味を持ったようで、思わず耳を傾ける。