その後2人は何とか無事に、他の人達に追い付くことが出来た。

 そして見送り場まで来ると、厩戸皇子(うまやどのみこ)達の後ろに回って、小野妹子(おののいもこ)達を見送ることにした。

裴世清(はいせいせい)、この度はここ倭国までお越し下さり、本当に有り難うございました。炊屋姫に代わってお礼をいいます」

 厩戸皇子は、その場にいる人達を代表して、彼に挨拶をする。

「はい、私の方こそ、とても良い機会を得ることができました。あなたや炊屋姫方にはとても感謝しております」

 裴世清達は、炊屋姫(かしきやひめ)とは小墾田宮(おはりだのみや)で既に別れの挨拶を済ませている。なので今この場にいるのは、厩戸皇子を含めて、わずかな人達だけである。

 彼らはここから、西に向かいまずは九州を目指す。そしてそこから海を渡り隋に行く手はずである。

妹子(いもこ)も、折角倭国に戻ってこれたというのに、またすぐ向かわせることになり、本当にすまない。だがお前なら、きっと成し遂げてくれると信じている」

「はい、厩戸皇子。あなたや炊屋姫、他の家臣の方々の期待に応えられるよう、隋で精一杯学んで参りたいと思います」

 その後厩戸皇子は、裴世清や、小野妹子達と順番に両手で握手を交わした。

(とりあえず、妹子殿のお顔を見れて本当に良かった)

 稚沙(ちさ)もこの場に来させてもらえて、本当に嬉しく、とても満足だった。

 そして丁度握手を終えた時である。
 小野妹子がふと稚沙の存在に気が付いたようで、彼女の前にやってきた。

「おや、今日はあなたも来られていたのですね」

 小野妹子は少し意外そうにしながらそういった。だが彼も彼女との再会にとても嬉しそうだ。

「はい、前回お会いした際は、本当に有り難うございました。あの時は妹子殿とお話し出来て、本当に良かったと思ってます!」

「えぇ、私もあなたにあえて本当に良かった。次に会う時は、あなたの本当のお相手が見つかってると良いですね」

 それを聞いた稚沙は、内心どうしたものかと思った。一応その相手は見つかり、今自分の側にいてくれている。

(うーん、どうしよう。今は面倒だから、次回会った時にお伝えしよう……)

「はい、次に会った時は、ぜひに」

 稚沙はとりあえず、そう彼にいった。

 そして小野妹子がニコニコしながら、彼女と話しをしていた時である。ふと彼はひどく痛い視線を感じる。

 彼が一体誰だろうと思って、相手を見ると、何と椋毘登(くらひと)がこちらに厳しい目を向けていた。

(なるほど、これは私が心配する必要もないようだ……)

「はい、頑張って下さいね」

 そしてその後も、各自がそれぞれ他愛ない会話をしたのち、裴世清や小野妹子達は、隋に向けて出発していった。