「あんたって、化粧とか上手な人だったんだろうな……」

「なーによ突然」

 卵を菜箸で手際よくといている「俺」に、俺は先ほど疑問に思った事をそのまま全て口にした。
 全てを聞いた後、「俺」は手を止めた。

「それを聞いてどうするの?」

 答える事に初めて抵抗を示した「俺」は、再び作業を始め、黙々と納豆を混ぜはじめた。
 その時だった。

「……おい」

 肩を強めに揺すられて、俺は何年かぶりにまともに対面する父親が帰ってきた事を知った。

「こんなところで何で寝てるんだ?」

「何でって……」

 いつの間にかソファで横になっていたらしい……ってあれ?
 俺は確か……さっきまで……あ!

 急に起き上がろうとしたら眩暈がして、ソファに倒れこんでしまった。

「大丈夫か?」

 長年まともに話をしていなかったはずの父が、普通に俺に声をかけているという奇妙な状況に違和感を一瞬覚えた。
 だが、そんな事が吹っ飛んでしまう別の事に今は気を取られている。
 そう、俺はさっきまで……。