「待てよ!」

 俺が文字通り飛んで追いかける。
 慣れてくると歩くよりも楽しいはずの追いかけっこだが、楽しんでいる場合ではない。
 「俺」は2階の部屋から階段を降り、1階のキッチンへと足を踏み入れ、冷蔵庫を漁り始めた。

「何してんだよ!」

「久々に食事でも作ってあげようかなと思って」

「勝手に人ん家の冷蔵庫漁るな!」

 そう言いながら冷蔵庫に再び目を向けながら「なんでこんなに食材が無いの?」とぶつぶつ文句を言いながら卵や冷えた飯、そして納豆のパックを取り出した。

「人の許可なく勝手に出すな!」

「今はあなたじゃなくてあたしがこの家の住人なんだから、勝手に出して当然じゃない。どうせロクなもの食べてなかったんでしょ」

「……なんであんたにそんな事わかんだよ」

「ちょっと家事慣れてればね、冷蔵庫見ただけで分かるもんなのよ」

「家事に慣れてるって……」

さっき「記憶がないのよねー」とか言ってた割に、

「もしかしてあんた……専業主婦だったんじゃないの?」

 自分の顔が一体どんなものなのかを自覚させ、乗り移ったことを心から後悔し、今すぐ俺に体を返したくなるように仕向けなくてはならなかった。
 その一番の方法と言えば「鏡」で己の姿を認めさせる事に尽きる!

「しょうがないな」

 そう言いながら「俺」はキッチンを出て、迷いなく階段を登った。

「おい、洗面所は1階だけど」

「でもこっちにもあるでしょ」

 「俺」は俺が未だかつてこの家で足を踏み入れた事が無かった部屋……父の寝室のドアを開けた。

「おい、勝手に開けたらまずいって」

「何?この部屋に入るの禁止されてる訳?」

「そういう訳じゃないけど……」

 そもそも、禁止されるどころか会話すらまともにした事が無いからな。

「じゃあ良いじゃない」