ネットで培ったスルースキルをふんだんに使いながら、どうでも良いところ……例えば話の途中で何故か「俺」がベッドの下をのぞき込んで色々探っている様子は徹底的に無視をしながら、何とか「俺」の情報を聞き出す事ができた。

 まず、「俺」の中身は女である事。
 これについては、一人称や口調だけならまだ、噂に聞く新宿二丁目の人々の可能性も否定できなくもないが、興味津々に俺の「男」の部分を、服を脱いで確認しようとしたところ……それも全力で阻止はしたが……その様子からは、本来それを持っていない人間だったというところまでは、「俺」がわざわざ言わなくても簡単に分かった。
 「俺」の名前や住んでいた場所については記憶が無く、いつからも分からないが、何となく気ままに幽霊をしていたらしい。
 気が付けば「俺」は俺が屋上に立ってるのを見て、自殺志願者だという事に気づいたとの事。

「こっちは触れる体が欲しくて欲しくてたまらないのに、それを捨てようとしてる人がいるんだったら、リサイクルするのが一番だと思って」

 たまたまその辺を浮遊してた幽霊に聞いた体のっとり法である「語り掛けて油断した隙に体にアタックする」で、見事に俺を体から追い出したそうだ。
 成功率は相当低いらしく、体と魂の相性が成功の鍵を握るとの事。
 実際「俺」にこの方法を教えた幽霊は一回も成功した事は無かったらしい。
 せいぜいできた事と言えば、ちょっと金縛りにさせたくらいだったとか。
 ……つまり、俺と「俺」の相性が偶然良かったから、今この結果になったという訳らしい。
 どこのライトノベルネタだよ。

「ま、そういう訳で、有難くあなたの体はあたしが使わせてもらうから、あなたは幽霊生活楽しんでいなさいな」

「何が『そういう訳』だ!人の体使って好き勝手遊ぶなよ」

「いいじゃない。あたしなら、この体を有効活用できるわよ」

「その体は俺のだ!何で他人に有効活用されないといけないんだ!」

「ああ言えばこう言うのね。……一体誰に似たのかしら……」

「頼むから俺の顔で女口調とウインクはやめてくれ!」

「どうして?あたしとしては、ものすごくしっくりきてるけど……」

「気持ち悪いからに決まってるだろ!」

 自分の声で女しゃべりされると俺がオカマになったように見えるし、ニキビとムダ毛だらけの顔でナルシストっぽいウインクはもはや見た人を石化する、メデューサ的力を発揮するかのごとくの破壊力だ。
 何としてもこの気持ち悪さを理解して貰わなくてはいけない。
 と思った時だった。
 突然「俺」はドアを開けて廊下に出て行ってしまった。