たった30分程前の自殺志願者の俺はどこに行ってしまったのだろうか?
 とても「今から飛び降りて死にます」と決意して靴を脱いでいたと、今の「俺」を見て思う奴がいたらぜひお目にかかりたい。   
 脱いだはずの靴を履くために汚れた足をズボンの裾で、まるで猿のようにごしごしと拭う「俺」を見ながら、この奇妙な「俺」をどうにかするのが先だと考えた。

「へえ、こんな部屋に住んでるのね」

 物珍しそうの顔をして、ギャルアニメのポスターまみれの部屋の壁を「俺」は眺めている。
 俺はため息をつきながら、それを見る。目をキラキラさせながら、戸棚の上の方に置いてあった水着姿の推しキャラのフィギュアを見つけられた時は、違う意味で死にたくなった。
 部屋に来るまでに俺と「俺」は数人とすれ違ったが、「俺」には軽い会釈をする人もいたが、俺はガン無視された。
 ……いや、一人だけ俺の姿を見た途端、鞄から数珠を取り出して念仏を唱え始めた人がいた。

「あたしが気づいて止めなかったら、そのまま成仏しちゃってたかもね」

 「俺」の話と、初めて感じたほわあっと温かいような、何かに呼ばれるような感覚が、俺が本当に幽霊になってしまったのだと実感させた。
 そうして、俺は「俺」を部屋に案内したのだが、その途端「俺」による公開処刑ものの物色大会が始まってしまったのだった。

「もう良いだろ。それ戻してくれよ」

 本当なら無理やり手から奪いたかったが、自分の意志で触る事が出来なくてジレンマを覚えた。

「死にたがってたじゃん」

 フィギュアの胸が本物そっくりの触感をしてるのかを確認しながら「俺」の方から唐突に本題に入り込んできた。
 そうだよ。
 その話をじっくりしたいだけなのに、なんで興味津々な目をしてフィギュアの水着を脱がしそうな「俺」に焦ってるんだ。
 俺だってそんな事したことないのに!

「いい加減にして。……高かったんだ」

「どれくらい?」

「……2万」

 値段を聞いて目を丸くした「俺」は「この家のどこにそんな金があるの?」などとぶつぶつ言いながら棚に戻した。
 ……本当は2000円だったが、これ以上フィギュアに時間を取られたくなかったので何も言わなかった。