「まあ、本当に母さんの幽霊だったかどうかは確かめられないけど……でもまあ、こんな機会貰えなかったら、ゆっくりお前と話もしてやれなかったからなあ……」

 たぶん、俺と父は今数年の隙間を埋めている、大事な局面を迎えているのだろう。
 だが、俺は全く別の事が気になってしょうがない。

「ねえ、ほんとに幽霊……放置プレイって言ったの?」

「ああ。その単語だけ何度も繰り返してたから、父さんも覚えてしまったんだ」

「母さんが生きてた頃って、そういう言葉流行ってた?」

「流行ってたら父さんが知らないはずないだろう」

 父は納豆チャーハンの最後の一口を食べ終わると、流しに皿を持っていく。
 俺はまだ半分しか食べ終わっていない。

「父さんはこれ、好きなの?」

「ああ、これは母さんのオリジナルレシピでな、納豆嫌いだった父さんに『納豆のうまさを教えてやる』と編み出したらしい。そういえば、お前ほんとにこれ作ったのか?母さんの味にそっくりなんだが……」

 その時、家の電話が突然鳴った。
 洗い物をしたばかりで手が濡れている父の代わりに出ようとした俺だったが、電話の場所がいつの間にか代わっていたのか、なかなか見つからない。
 音を頼りに探し当てると、何故かリビングにまとめていた新聞紙の下に隠れていた。
 受話器を取ろうとした時だった。留守番電話案内になってしまったのは。
 その声を聞いて、俺は驚いた。

「いらないならあたしに頂戴」

 あの声に、そっくりだった。

「父さん……この留守電の声って、機械に元々入ってたの?」

「ああ、あれは母さんの声だよ。機械の声はあまり好きじゃないんだってさ。そういえば母さんの声って、言った事無かったな……」