「こうしてきちんと会うのも何年ぶりだろうな」

 父が感慨深そうな声をかけた。
 顔を少し上げると、父がすまなそうな顔をして俺を見ていた。

「父さんの仕事が忙しいばっかりに家にもきちんと帰れなくて……お前には寂しい思いをさせて……」

「突然どうしたんだよ」

 そう。あまりにも突然だった。
 今までもソファで朝まで寝た事もあったが、父から起こされたことなどなかったし、こんな風に謝ってくる事など、授業参観が行けない日でさえ無かったのだ。
 何故急に……。

「いや、笑わないで聞いてくれるか?」

 そういうと、父は今日の仕事中の出来事を急に語り出した。

 父の仕事はホテルの支配人をしていて、ここ数年特に人手が不足していた事から、仮眠時間を少し取るだけで丸一日働かなくてはいけなかったらしい。
 だから家に帰れる日は疲れで一日中寝てしまう為、俺ともあまり遭遇することは無かったとの事。
 小学校の間までは祖母がいたし、祖母が亡くなった時も中学生に入ったから一人でも大丈夫だと思っていたそうだ。
 自分を育てた祖母がきちんと育てた息子だから、自分は仕事に専念して息子の将来に備えようと必死に働いていたというのが、父の真実だったらしい。