「いらないなら、その体貰うね」

 知らないはずのその声が聞こえたのは、住んでいるマンションの屋上から飛び降りようと靴を抜いた時だった。

 他人と同じ事を「強制される」中学校での生活。少しでも違う何かを……善悪問わず見つけられたときには、ここぞとばかりに容疑者扱いし、周囲の奴らはこぞって被害者、もしくは正義のヒーロー気取りで異質さを糾弾する。
 糾弾する過程にスリルを感じるのか、糾弾される側の表情の醜くゆがんでいく様を眺める事で彼らが快楽を得るのか、そんな事はどうでもいい。
 ただ、容疑者は奴らの為だけに存在させられる。それは同質である事を絶対的に求められているから。
 俺はそんな馬鹿げた裁判ごっこに無理やり付き合わされることに、とうとうウンザリさせられた。
 決して奴らから逃げ出すという訳ではない。断じて。

 迷いは一切無かった。
 母の命と引き換えにして生まれた息子になど、決して興味を抱くものかと、断固として俺との交流を拒否し続けてきたであろう父しかもう居ないこの家に、俺の意思など残す必要がないと思ったので遺書は書かなかった。
 そうしてフェンスを乗り越えて後はジャンプするだけで良かったのに、俺は今

「うーん、男の子の体ってやっぱり胸は軽いのね」

 Tシャツを捲って自分の胸を覗き込んで「いやーやっぱり無いのねー」と言う「俺」を見ているのだ。