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「天雨神さまが巫女の声も聞き遂げずに女子に夢中とは本当か」
最近天雨家に尋ねてくる他の天宮家の主は、みなその話をする。泰三はまるで自分が天宮家の中心になったような気分で胸を躍らせながら、厳しい表情をすると、うむ、と頷いた。
「相手の女子はどのような……。巫女なのか?」
「巫女ではない。あれはそんな立場ではない」
その場にいる天宮家の主たちがざわざわとざわめく。神は宮巫女とだけ通じるものとして受け継がれてきただけに、主たちの驚きは大きかった。
「それが誠なら、由々しき事態。なんとしてでも天雨神さまに、お目を覚ましてもらわねばならぬのではないか、泰三殿。それでなくともこの三年、神土家は必死で土の神さまにお願いをしておるのだ。本来なら雨による土砂崩れや渇水の地面のひび割れは、半分は天雨神さまの領域。それを一手にお引き受け下さっている天土神さまも、疲弊しておられる」
天土神・トノヂ神は神力たけだけしい神さまだったが、領分を超えた守りを続けた結果、力が著しく衰えているらしい。一年でも安定した雨を欠いた状況は好ましくないのに、三年も続いてしまったこの危機的状況を打開しようと、天神不可侵の理を破って神土家の巫女に天雨神さまへの申し入れをさせてみたが、巫女が天雨神さまの真名を扱いきれず、お声を賜ることは出来なかった。木の神も同様の様で、神木家の巫女は木の神・イタケ神から天雨神に雨を降らせてくれるよう頼んで欲しいと陳情したが、天神はそもそも請け負う使命について干渉しあわないというのが理らしく、これも徒労に終わった。(先のトノヂ神の力の衰えはこれに反する行為だったかららしい)
「天木神さまも、雨の安定なしには作物の生育をこれ以上管理するのは難しいとおっしゃられている。手立てはあるのか、泰三殿」
矢継ぎ早に質問されて、まあ急くな、と泰三は主たちを宥める。
「私の娘が末の神さまの依り代となり、お言葉を陛下と私に聞かせて下さった。末の神さまが雨を降らせてくださるそうだ。鈴花と末の神さまは良き契約関係を保っている。必ず、雨は降る」
自分の言葉に安堵する主たちを、泰三はまるで自分が帝になったかのような得意げな気持ちで見つめていた。
「まあ、しばし待たれよ。鈴花が成果を出してくれよう」
不遜な態度で応じるも、他の主たちはその言葉に安堵して頷いた。