その日、1ヶ月ぶりに哲学の講義に出席した美咲は、大きなマスク姿だった。

「美咲、大学1ヶ月も休んで、もう体調はいいの?」

「お陰様で。整形やっと終わったの。快気祝いしてよ、今日の夜」

「勿論」

私はにっこり笑った。


その日の夜、指定されたのは、いつものバーでも美咲のお気に入りのイタリアンレストランでもなく、道路沿いに面した小さな公園だった。

「珍しいね、公園」

辺りを見渡すが、小さなブランコと砂場、二人掛けのスチールベンチが並んでいるだけの公園には私達以外誰もいない。

「まずは乾杯しよ」

美咲は、抱えていたコンビニ袋から、缶ビールを取り出すと私に渡した。

「有難う」

「先に一気飲みしてよ、アタシのお祝いなんだから」

「……分かった」

私はあまりお酒は強くないが、美咲の快気祝いだ、勧められるままに缶ビールを一気に飲み干した。喉が熱くなる。アルコールが一気に脳みそにも回って、ふわふわする。

「いい飲みっぷり」

美咲は優しく微笑んだ。そして、そのまま立ち上がった。

「美咲は飲まないの?」

「まだ顎が本調子じゃないんだよね」

「無理しないでね」

美咲は、大きなマスクをしたまま、目元を細めた。久しぶりにみた美咲に何となく違和感を感じる。整形を何度もしてるからだろうか?

「ちょっと歩かない?運動不足なの」

「勿論だよ」

二人で並んで歩く裏通りは、人通りはなく、信号もない為、トラックの裏道となっていた。スピードをだして通りすぎるトラックを美咲が睨みつけた。

「危ないなぁ」

段々と街灯も少なくなってきた、暗い道端の古びた自動販売機の明かりの前で、美咲が立ち止まった。

「喉乾いちゃった、お水買うね」

「分かった」

美咲は、買ったばかりのミネラルウォーターのキャップを回すと、マスクに手を掛けた。

そして、素顔を晒すと、ゴクゴクと喉を鳴らして飲み干した。

ーーーー私は、思わず呼吸が止まっていた。

「どう?アタシの整形うまくいったでしょ?」