「ふっ……」

気のせいかと思った。だって、その声はまるで……。

「あははははははっ」

私は、体をビクンと震わせた。英太がこちらを向くと、腹をかかえて笑っている。

「え?冗談なの?」

「まさか、本当だよ、明日お通夜だから、実家帰るわ……マスクしとかなきゃ、笑ってんのバレそう」

「かなしく……ないの?」

涙を拭う私を、英太は真っ直ぐな瞳で見つめた。

「花音と一緒だよ。僕には喜怒哀楽の『哀』がない」

英太は、唇を持ち上げてニッと笑った。

「花音が持ってないのは『怒』だよね?」

「知っ……てたの?」

「あぁ、一度見ちゃったんだよね、花音が女の子に罵声をあびせられながら、故意に突き飛ばされたとこ。蹲ってたから、助けに行こうかと思ったら、痛がりながらも、花音が、大声で、腹を抱えて笑ったのが印象的でさ」

全然知らなかった、あの時のことを誰かが見ていたなんて。

「あと、人数多いから気づいてなかったと思うけど、哲学の講義一緒でさ、よく花音が友達と、大学前のカフェに出入りしてるのみて、バイト始めたんだ。花音のことが知りたくて」

私は、驚きながらも、同じように、喜怒哀楽の一つを持ってないことを共感してくれる人が目の前に居て、その人が自分の恋人であることに堪らなく幸福を感じていた。

「嬉しい……」

「僕もだよ、……いつか……お互い『持ってないモノ』を補い合えるといいよね」

私が見上げれば、英太が優しく微笑み、唇を
落とした。