「花音、白いお皿取ってくれる?」

私は、食器棚を開けると二段目の右端にあるプレートを2枚慣れた手つきで英太に渡す。
英太と付き合い始めて3ヶ月、私は毎週の様に週末は、英太の家で過ごす様になっていた。

「すっかり、ここの住人だね」

瑛太は悪戯っ子の様な顔をしながら、白いプレートにサラダを盛り付けた。私は焼き上がったハンバーグをサラダの横に乗せた。

「うまそ」

「美味しいか、分かんないけど」

「あれ、ソースはデミグラスなんだ」

「うん、ハンバーグもオムライスもデミグラスしか食べれなくて」

「奇遇だな、僕も」

何気ない食事も、何気ない会話も英太が側にいるだけで、今まで感じたことない幸せを感じていた。後片付けを終えて、一緒にお風呂に入り、私達はいつもの様にシングルベッドで重なり合った。

「……気持ち良かったな」

いつものように、優しく英太に抱きしめられながら、私は小さく頷いた。

その時ふいに、ベットサイドに置いていた英太のスマホが鳴る。

「誰?」

「ん?母さんからだ、こんな夜に何だろ?」

英太は、迷わずスマホをタップした。

「え?……そうなんだ」

英太が驚いた様に口元に手を当てた。

「うん…、それで?」

こんな真夜中に息子に電話をかけてくる位だ。良くない知らせなのかもしれない。

私から顔が見えない様に英太は、ベッド脇に背中を向けて座りなおすと、やがて肩を震わせた。

「分かった、明日帰るから」

それだけ言って、慌てる様に先に電話を切ったのは英太だった。

「大丈夫?」

「父さん、病気だったんだけどさ、さっき亡くなったって」

英太の後ろ姿が、丸まって震えている。