バイトが終わり、店を出てすぐに、花音に声をかけられる。

「あれ?どしたの?今日は遅番シフトだから会えないって言ったよね?」

「急に……英太に会いたくなって」

目の前の花音は、間違いなく花音なのに、何処か違和感を感じる。

「ねぇ、英太、お腹減っちゃった」

花音の声が、いつもよりも少し鼻にかかっている。

「じゃあ、僕がオムライス作るよ、デミグラスの」

「アタシ、ケチャップがいい」

僕は、ゆっくりと、繋いでいた花音の右手を
離した。

ピタリと足を止めた僕に、花音ではない花音が、ケタケタと笑う。

「やっぱバレた?でも、今日から、アタシが羽田花音だから」

「その声、いつも花音と一緒にいた美咲?とかいう人だよね。今のどういう意味?」

僕の中に、黒い感情が揺らめいていく。

「怖い顔。ずっと花音になりたかったんだよね、だから花音そっくりに整形して、これからは花音として生きていくの」

光悦とした表情を浮かべながら、美咲が、にんまり笑った。

「もう一つ、イイコト教えてあげる。花音ね、さっき、トラックに跳ねられたらしくて、死んだわよ。不慮の事故みたい……。あ、間違えた。死んだのは美咲ね」

そう言葉に吐いた瞬間、美咲の顔があっという間に驚きに変わる。


ーーーーだめか。

僕は、開いた口を無理やり閉めると、諦めたように溜息を吐いた。

恋人を失っても、僕にはやはり、『哀』の感情が分からない。それどころか、やっぱり笑ってしまう。

今だって、足をガクガクと震えさせながら、恐怖の眼差しで僕を見ている美咲が、可笑しくてたまらない。

「あはははははっ」

僕は腹を抱えて笑った。