「私は、人間は愚か同じ神と関わるのすら嫌いだった。なのに鼓水だけは特別だ。こんな不可思議な気持ちは、どの書物にも説明されていない」

低くそれでいて涼しげな声が、私の耳元で囁いた。

「教えてくれ。これが恋というものか?」

にわかに身体が火照って、私は消え入りそうな声で返した。

「解かりませぬ……。貴方様の気持ちを、私などが軽々と」

「それは困る。知りたいのだ、私は」

身体の向きを変えられ、向き合うような姿勢になる。
美しいお顔が真っ直ぐに私を見つめた。
真剣な眼差しを送りつつも、その表情は春の日差しに溶けこむように穏やかで。
ふやけるように、つい私も顔を綻ばせてしまう。

「なんだか透冴様、ぽかぽかお日様みたい」

湖水深くに住まい、辺り一帯の水を司る水神様。
初めてお会いした時は、その神々しい銀髪と青い目がどこか冷ややかに感じられて畏怖を覚えたけれども。

「恋をすると、みな穏やかで柔らかくなるというのは本当なのですね」

つい言ってしまって、はっとなる。

これでは『透冴様は私に恋をしているんですね』なんて言っているようなものじゃないの……!