「いたぜ、兄者!」

突然、黒い影が言葉を発したように聞こえた。

あれ、この声には覚えが……。

そっと目を開けると、銀髪の美しいお方――透冴様が駆けて来られた。

「鼓水! どこに行っていたのだ」

透冴様は私をきつくきつく抱き締めた。

「どうして急に? 何があったのだ?」

畳みかけるその声には、いつもの悠然とした余裕は感じられなかった。

私の元から離れるのは許さない。

抱き締める腕の強さと相まって、そう訴えているような気がした。

「ごめんなさい、透冴様」

強く抱き締め返し、私は泣きそうになるのを堪えた。

「私、怖くなってしまったのです。透冴様は本当は人間の私のことなど、ただの真新しい興味対象ぐらいにしか思われていないのではないかと……。私が都合のいいように、透冴様が恋をしていると思いこませているだけなのではないかと……」

そうか、と透冴様は呟いた。
やはりな、とも言っているような口調だった。