「私ったら何を……」

不安を振り切るように、かぶりを振る。

「透冴様はしかと自らの言葉で想いを告げてくださっているじゃない……」

突然、私の不安をあおるように、空に黒雲が広がった。

湖底のここから見る空とはつまり、湖面のこと。
雲など出るはずが。

「きゃっ」

黒雲に稲妻が走った。
思わず目を閉じる。

しばらくしてゆっくりと目を開けると、目の前に私と同じくらいの年の男の子が立っていた。

とても綺麗な顔をしていて、身体はそれほど大きくない。
むしろ小柄な方だけれど、ツンツンと立った黒髪が快活な印象を与えた。

袖と裾をまくって動きやすそうにしているけれども、とても高貴そうなお召し物を纏っている。
どことなく、透冴様が普段着られている物と似ているような……。

「またうるさいのが来たな」

座敷に籠って読書に勤しんでいた透冴様がいつの間にかいらして、少し煩わしそうに呟いた。

「あのお方も神様ですか?」
「ああ。同じ龍族で、私の――」
「兄者! お久しぶりです!」

と、黒衣の龍神様が笑顔満面で駆け寄ってきた。

兄者?

と言うことは、透冴様の弟君様?