やっぱり、透冴様は天邪鬼にもほどがある。

どうしてお別れの時に、初めて名前を教えてくださるのですか。
もう二度とその名でお呼びする機会には恵まれないかもしれないのに……。

「一生涯忘れませぬ、透冴様」
「ああ」
「どうぞ、お元気で」

振り切るように水流に身を投じると、気付いたら湖の水辺に横たわっていた。

瑞々しい草木からは、雨上がりの香りがした。
私は堰を切ったように泣きじゃくった。

その後、透冴様は絶えることなく毎年雨のお恵みをくださり、日照りが嘘だったように、私の村は豊かな水を誇る大きな村へと変わっていった。
生贄として名乗りをあげた勇気と無事に帰ってきた奇跡により、私は村人から崇拝されるようになり、水龍の巫女として崇められ、何不自由ない暮らしを送れるようになった。
もちろん、弟も元気になり健やかに育った。

でも私はずっと、満たされない想いを抱いてきた。

透冴様を忘れるなんて、できなかった。
それどころか、日増しに想いが募っていった。

そして、縁談の話が舞い込んだ時に、いてもたってもいられず再び湖に身を投げたのだった。
再会を果たした私は透冴様に想いを告白し――色々経た結果、透冴様は私を受け入れてくれて、妻としてくれたのだ……。