水神様は読書がお好きらしい。
広い広いお座敷には、積み上がった書物が所狭しと置かれている。
そしてこういった座敷はここだけでは無いらしい。

領主様だってこれほどの場所には住んでいないだろうと思わせる大きなお屋敷。
湖底にひっそりと佇むこの中で、水神様はずっと書物を嗜まれて過ごされていたのだろうか。

「あ、あの、水神様はこちらにお一人でお住まいで？」
「そうだが？」

まだいたのか、と言わんばかりにおざなりに返されて、それで会話が終わる。
しーんと静まり返ったお座敷に、書物をめくる音だけが響く。

「あの……！」
「なんだ」
「お寂しくないですか？　お一人で、こんな広いお屋敷にいて」
「さみしい？　なんだそれは？」
「え？」

思わずきょとんとしてしまった私。

「寂しいとは、誰かがそばにいて欲しいと思うことです」
「そんなわけがあるか。私は人間は愚か、同じ神も嫌いだ。一人が一番、落ち着くのだ」
「さようですか……」

水神様は嘲るような微笑を浮かべた。