姫君の答えは、皇帝にはとても不思議なものに感じられました。皇帝はまた驚きました。こんな人には会ったことがない、と再び思いました。そして楽しんでいることに気がつきました。
「約束はできない」
 そして皇帝の口から出た声にも、楽しそうな響きは表れました。そのことに誰もが気づきました。国を良く治めることを約束できないなんて、嬉しそうに言うものだから、皆が驚き、そして姫君を哀れみました。大臣たちは、なんてむごい人だろうと思いました。
 そんな人々の気持ちなどまったく気にせず、皇帝は続けて言いました。
「だがあなたがずっとわたしのとなりで歌い続けてくれたら、わたしは自分のしていることに気づくだろう」
 今度は、皇帝に従ってきていた将軍たちがあきれてしまいました。あきれるあまりに、皇帝を止めるような言葉も出ません。
 今会ったばかりの姫君に言うようなことではなかったからであり、若い皇帝は強い力を持つゆえに、いつも突然予想もつかないこと言っては人々を驚かせていたのです。
「あなたは、わたくしから父と母と国を奪ったのに、そのようなことが言えるのですか」
 姫君も驚きました。そして責任感と緊張のあまりに忘れていた悲しみを思い出し、さらに怒りで、姫君の金の声は強張っていました。姫君の反応はもっともなことに皆思いました。戦争に負けた国なのだから、皇帝の言うことに従うのは当然ではあっても、皇帝の言い方は命じるようなものではなかったからです。
 戦争に勝った支配者として命令されていたら、姫君は従っていたでしょう。怒ったりはしなかったはずです。仕方のないことでしたから。
 それなのに皇帝は、姫君に、まるで頼むように言いました。逆らえない状況なのにそうやって頼むのは、とてもずるいことに思えました。
 けれどもそれは同時に、皇帝が姫君のことを「負けた国の姫君」として、言い聞かせることの出来る相手と見ていないことの証明でもありました。皇帝は人に逆らわれるのが嫌いで、頼まなくても命令できるのに、そうしなかったので。
「父君と母君は返せぬが、国はあなたに返そう。わたしと結婚すれば返すことができる。そして新しい家族を与えることが出来る」
 わがままな若い皇帝は、人の気持ちを忘れがちでしたが、若さゆえの自信にあふれていました。