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「すごかったな・・・・・・」
 鑑賞中に横を見たら、一生懸命口を塞いで言いつけを守ろうとしていた姿が健気に思え、でもその分、今口をぽかんと開け放って歩く姿は間抜けだった。
「いい加減興奮から抜け出しなよ」
「んん・・・・・・お腹空いた」
 呆れ口調でたしなめると、翔琉は深呼吸して、お腹を押さえた。のんびりした物言いに、思わず微笑む。あんなにぽんぽんポップコーン口に放り込んでたのに。
 まあ、しょうがないか。あらかた序盤で箱は空になり、さらに最後の方は涙が体の先端からごっそりかき集めたくらいに出てきたから、ポップコーンどころじゃなかったしなあ。
「カフェにでも行く?」
 ちょっと早いけど、一応おやつどきだ。
 隣に併設されたショッピングモールに二人は入って、カフェの窓側を陣取り軽食を頼む。それからようやく腰を落ち着けた。
 途端に。
「すごかったよね。まず、そもそもストーリーが面白かった」
 から始まり、ものすごい勢いで感想を述べ始めた。脚本、演技、演出、美術。果てはメイクやファッションまでくまなく。
 いかにそれがすごかったか、心に響いてやまなかったかを言葉にする翔琉もすごいが、あの映画はそこまで言われるほどの才能が光ったものだったのも事実だと、輝月は思う。
「前置きなしでもわかりやすかったしさ」
 客の心がどんどん引き込まれていくストーリー構成、そして、惹きつけたら最後、鑑賞後も放さない演出。
「思い出しても泣けるのはすごいよ」
 言いながら、ちょっと涙目になって鼻をすんとすするので、くすりと笑ってしまいつつも同意する。
 きっと大流行するだろうな、あの映画は。なにか賞でも取ってしまうかもしれない、とんでもないものを見たという印象が強い。
「絶対明日学校行ったら広めたい」
 翔琉は大きく息を吐いて、感想を締めくくった。あまりに一気に言いすぎたのか、少々疲れが見える。聞いていたこっちも疲れた。だが、翔琉の言うことは共感できた。
「あ〜、すごかったなぁ」
 高揚感を全て吐き出してしまってもなお、まだうわずった声で言う。だけど、窓から差す太陽の光に輝く翔琉の顔は、とても綺麗で清々しくて。
 翔琉のこんな顔、初めて見たかもしれない。
 輝月は初めて、その顔を作る人々、ひいてはあのように素晴らしい映画を作る人々に、かすかな憧れを抱いた。