寒菊のことを知るたびに、彼に幸せになってほしいと願うようになった。山奥の小屋のようなところで過ごしていたのだと聞いたときには、泣きそうになった。

しかし、そういう過酷な人生を送ってきたから、斯くも優しい人間に成ったのだろうとも思った。

 感動しながら、俺は思った。提案した。寒菊はここを継いだら、早々に潰してしまえばいい。そして、屋敷だけを持てばいい。

 寒菊という名前が父のつけたものだと知ると、途端に嫉妬に駆られた。どうして赤の他人に菊の名を与える。

どうしてここを継ぐべきであるはずの俺に、庭にあんなにも咲いている花の名をつけてくれなかった。愚かしい執着だとも思うが、どうにも哀しかった。

 寒菊を妬むまま、藍との紲を見せつけた。俺はこんなにも美しい力を持っている。俺はこんなにも美しいものと、離れ難く繋がっている。

さあ妬め、羨め。俺はこんなにも美しい色を持っているのだ——。

見せつけるはずが、自らの惨めさを鳥瞰するような心地になった。

俺は菊の加護を受けられない、柄巻が藍色というだけでこの刀に依存している、そんな強固なものでもなかろうに、この関係を紲と呼んで縋っている。なんて惨めだろう、愚かだろう、醜いのだろうと切なくなった。

 どうして父上はこの男に寒菊なんて名づけたのだと喚きたくなった。父は、どうしてこんなにも俺に期待してくれない。俺を認めてくれない。

あやかしを憎んでいるからか。化け物と蔑むからか。しかし、眼の前で母親を奪われておきながら憎まずにいられる者があるだろうか。

 いや、父は初めから俺には継がせるつもりはなかったといった。そんなにも気に入らないのなら、やはり俺に継がせるべきだ。

化け物に襲われるという危険に、気に入らない者こそ曝すべきだ。それがなぜ、菊臣だったのだ。