私が夕食を摂っている間、美傘は終始哀しい顔をしていた。

 味噌汁を啜った音に、「本当に、いなくなってしまったのかしら」という濡れた呟きが流れ込んだ。

 「今朝聞いたときには、まるで信じられなかったの。でも、今日一日、過ごすうちに……本当に、久菊さまはいないんじゃないかと思えてきたの」

 私は喉の奥の震えに汁椀を置いた。旦那さま。川の奥に空が続いているようだといった旦那さま。

紐で無理やり、腰に括りつけるとも吊り下げるともつかない形で持っていた刀を見て、お侍さんかなといった旦那さま。

私の喪失感を見抜き、それと向き合う場所が必要ならここへくればいいといってくれた旦那さま。

 旦那さまに、会えない。声が聞けない。

 美傘は震える脣を嚙み、首を振って両手で顔を覆った。細い体が痛々しく震える。濡れた呼吸に嗚咽が混じる。

 人は、なにゆえいなくなるのだろう。声も聞かせてくれず、姿も見せてくれず、なにゆえ、そんな遠くへ逝ってしまうのだろう。

その喪失はなにを生む。絶望だけではないか。それから眼を逸らす術を持たぬ者もある。

 旦那さま、父上、母上——会いたいです——。三人が同時にいる世界は、どんなに美しいだろう。

 「久菊さま」と美傘の濡れた声が彼を求める。

 「まだ、お礼もできていないのに」

 私もそうだ。あれから、旦那さまには一度も会っていない。居場所と、仲間と。食事と役目と、着物と、箪笥と。貰ったばかりで、なにも返せていない。最後に見た笑い顔が、苦しいほど鮮明に、色濃く思い出される。