「まだこんなにも美しい姿ですのに……もう、枯れ落ちてしまうのですね。また次の年に美しい姿を見せていただくために必要な休息とはいえ、名残惜しいものですわ」

「……マリエッタ嬢は」

「はい?」

「この薔薇が、気味悪くはないのか? 王城でしか咲かない"呪いの白薔薇"だと、聞いたことがあるだろう」

 呪いの白薔薇。
 この白薔薇がそう呼ばれていると知ったのは、アベル様からこの薔薇を受け取った後だった。

 王城でしか栽培されていないのは、王城でしか咲かないから。
 というのも、この白薔薇は王妃となった初代聖女ルザミナ様が亡くなった際に、初めて蕾を付けたらしい。
 後に城外への株分けを何度か試みるも、どれ一つ蕾を付けなかったとか。

 そのため一部では、ルザミナ様の無念が込められているとか。酷いものでは、ルザミナ様の生気を奪って咲いただとか。
 噂好きの貴族社会で好まれそうな逸話が囁かれている。
 まったくもって、失礼な噂。

「お察しの通り、"呪いの白薔薇"のお話は私も存じております。ですが所詮は噂話。そもそも、内容も納得がいきませんわ。こんなにも美しい姿なのだから、込められた願いも美しいものでしょうに。仮にルザミナ様のお力が関わってらっしゃるのだとしたら、最初の蕾に願われたのは、愛しい旦那様と愛する家族たちへの祈りに決まっていますわ。だからこそ、王城でしか咲かないのだと」

 刹那、アベル様がフッと小さく噴き出した。
 私は興奮していた自身にはっと気が付き、

「申し訳ありません、幼稚な真似を」

「いや、そうではない」

 アベル様はどこか嬉し気にクツクツと喉を鳴らして、

「期待した通りだと思ってな。……俺は、キミに謝らなければならない」

「え……?」