おしゃれな服屋でイケイケの店員さんから声を掛けられるのが苦手だ。
店の前を通りかかったとき、鼻にかかった声と独特のイントネーションで「いらっしゃいませーえ。どうぞご覧くださいませーえ」と呼び込みされるのも、苦手。
あれってなんだか私みたいな地味で暗い人間をブロックされているみたいだ。
店員さんはみんなケバケバしくてギラギラしたネイルをしていて、そして何より元から可愛い。
対して、私はブスで暗くて地味。
そんな人たちが着ている服を私が着る? 分不相応にもほどがある。笑われるだけだ。
高校生の私がおしゃれをする意味も特にない。毎日制服で事足りるわけだし。
おしゃれなんて、チャラチャラした女の子たちがするもので、私がするものじゃない。
というわけで、私は決めている。
服は、ファストファッションの通販で買うものだ、それで十分なんだって。
そもそも、リアル店舗で、店員さんと対面して服を買うなんてこの時代ナンセンスじゃない?
*
夏休み明けすぐだと言うのに、高校の創立記念日があるなんてちょっとリズムが崩れる。おかげで他の高校生たちが「夏休み延長してくれー」なんて嘆いている九月初頭、私は一日だけ夏休みの延長戦をもらえた。
そんな私を便利扱いしてくるのが母だ。
入院している祖母に梨やらお菓子やらの詰め合わせをもって見舞いしに行きなさいと指示され、バスに乗って山間にある大病院に入院している祖母に会いに行った。ただの検査入院ということだが、年も年だ。いつどんな病気を宣告されてもおかしくはない。
コロナウイルス感染防止ということで、面会は短時間で終わってしまった。今は少し感染が落ち着いてはいるものの、もしものことがあったらと私も不安だ。後ろ髪を引かれる思いで、祖母に別れを告げた。
そこからしばらく病院の周りを散歩してみることにした。
バスに乗っていた時間よりも、祖母に会っていた時間の方が短いことの埋め合わせをするかのように、私は病院の付近の住宅街を歩く。自然が豊かで交通量も少なく、都市部と違って山鳥の鳴き声が耳を喜ばせる。こんなところで老後を過ごせれば、祖母も心安らかだろう。
するとかつては商店街だったかに見える通りに出た。
なんだか人通りが少なく、寂れた雰囲気。
「にゃー」
突然、猫の鳴き声がして私はそちらを見やる。商店と商店の間の路地から出てきたのだろうか、白い猫が私を見つめている。
野良猫ではないだろう。なんだか毛並みが良く、育ちの良さを感じさせる。
「にゃーーー」
今度はさっきよりも長く鳴く。
私を呼んでいるかのようだ。
愛らしい瞳に吸い込まれるようにして、私は警戒されないように近づいていく。
店の前を通りかかったとき、鼻にかかった声と独特のイントネーションで「いらっしゃいませーえ。どうぞご覧くださいませーえ」と呼び込みされるのも、苦手。
あれってなんだか私みたいな地味で暗い人間をブロックされているみたいだ。
店員さんはみんなケバケバしくてギラギラしたネイルをしていて、そして何より元から可愛い。
対して、私はブスで暗くて地味。
そんな人たちが着ている服を私が着る? 分不相応にもほどがある。笑われるだけだ。
高校生の私がおしゃれをする意味も特にない。毎日制服で事足りるわけだし。
おしゃれなんて、チャラチャラした女の子たちがするもので、私がするものじゃない。
というわけで、私は決めている。
服は、ファストファッションの通販で買うものだ、それで十分なんだって。
そもそも、リアル店舗で、店員さんと対面して服を買うなんてこの時代ナンセンスじゃない?
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夏休み明けすぐだと言うのに、高校の創立記念日があるなんてちょっとリズムが崩れる。おかげで他の高校生たちが「夏休み延長してくれー」なんて嘆いている九月初頭、私は一日だけ夏休みの延長戦をもらえた。
そんな私を便利扱いしてくるのが母だ。
入院している祖母に梨やらお菓子やらの詰め合わせをもって見舞いしに行きなさいと指示され、バスに乗って山間にある大病院に入院している祖母に会いに行った。ただの検査入院ということだが、年も年だ。いつどんな病気を宣告されてもおかしくはない。
コロナウイルス感染防止ということで、面会は短時間で終わってしまった。今は少し感染が落ち着いてはいるものの、もしものことがあったらと私も不安だ。後ろ髪を引かれる思いで、祖母に別れを告げた。
そこからしばらく病院の周りを散歩してみることにした。
バスに乗っていた時間よりも、祖母に会っていた時間の方が短いことの埋め合わせをするかのように、私は病院の付近の住宅街を歩く。自然が豊かで交通量も少なく、都市部と違って山鳥の鳴き声が耳を喜ばせる。こんなところで老後を過ごせれば、祖母も心安らかだろう。
するとかつては商店街だったかに見える通りに出た。
なんだか人通りが少なく、寂れた雰囲気。
「にゃー」
突然、猫の鳴き声がして私はそちらを見やる。商店と商店の間の路地から出てきたのだろうか、白い猫が私を見つめている。
野良猫ではないだろう。なんだか毛並みが良く、育ちの良さを感じさせる。
「にゃーーー」
今度はさっきよりも長く鳴く。
私を呼んでいるかのようだ。
愛らしい瞳に吸い込まれるようにして、私は警戒されないように近づいていく。