わたしの背中はいつでも丸まっていて、まさしく猫のよう――見事な猫背だった。
 むろん、視線はいつもうつむきがちで、おのずと表情も暗くなる――の負のループだった。

 そんなわたしを変えたのが、猫背仲間――というのは冗談だけど――のイトだった。

 店に誰もいないのを見計らってするっと店の中に入ってきた白猫は、わたしの目の前で二十歳前後の美青年へと姿を変えて見せて、こう言った。

『人間は外見が内面を作る。お前は変わりたがっているだろ? 服屋の娘なんだったら、外見から内面を変えてみせろ』

 乱暴な口ぶりで告げたかと思うと、トルソーに着せられていた明るいネイビーのワンピースを指さした。
 ウエストにリボンのベルトが付いた、Xラインのシルエット。
 袖や襟の縁に白いラインが付いていて、金色のボタンがネイビーの地に映えた。
 どこかお金持ちのお嬢様が通う私学の制服のような雰囲気でありながらも、どこかに堅すぎないかわいらしさが漂う。

 それを前に、人間化したイトは自信を持って主張した。

『これは、お前のために仕入れたワンピースだ。着てみろ』

 あたかも、自分が問屋で仕入れたかのような口ぶりだった。当時はそんなはずがないと思っていたけれど、今思えば本当にイトが仕入れてきたものだったのかもしれない。

 わたしはほんのひとときトルソーに見入ったものの、すぐに視線を下げ、力なく首を振った。

『こんなかわいいワンピース、わたしには似合わないよ』
『それはお前の思い込みじゃないか。だまされたと思って試着してみろ』
『だって、こんなのわたしが急に着たら、笑われる』

 わたしが通っていた学校に制服は存在しなかったので、みんな私服で登校していた。
 いつもダサい福留、で通っているのに、そこで急に服装を変えだしたら悪目立ちしてしまうではないか。

『そうやっていつまでも自分の目の前にブロック塀を築いているつもりなんだな? そうやって言い訳するごとにお前は一つずつブロックを積み重ねている』

 ぐさぐさと痛いところを突かれたわたしは、トルソーから引き剥がすようにワンピースを手に取った。

『わかった、わかった! 着ますよ! 着ればいいんでしょ』

 半ばやけくそになって、その時着ていたほとんど布くずのような服を脱ぎ捨て、ワンピースを試着した。

 すぐにわかったし、今でもよくわかっている。
 あのときイトがわたしに伝えたかったことが、何であるのか。

 鏡に自分の姿を映し出したわたしは、息を呑んだ。
 そこに映し出されたわたしが、わたしであるのに、わたしではないようで。

 今ならば一応こうして説明できる――あのワンピースはわたしのパーソナルカラーにも骨格にも合致したカラーとデザインだったからなのだと。

 だけどそうした”方程式”めいた理屈を超える何かが鏡の中にはあった。

 鏡の中のわたしは、自分で自分の目の前に築き上げたブロック塀を壊したがっているようだったし、それがわたしにならできると訴えかけていた。