「イト!? イト!!」
双子の姉のお客様をお見送りするやいなや、わたしは店を飛び出した。
イトがしんどそうという言葉にいてもたってもいられない。
もしもイトの健康に、命に、重大な問題があったらと思うと――胸が、体が、引きちぎれそうだ。
だって、イトはわたしのおじいちゃんなのだから。
またそれ以上に、今のわたしにとって大切な相棒なのだから。
イトなしにわたしの今は考えられない。
*
物心ついたときから、わたしはたくさんの洋服に囲まれていた。
祖母・絹子が開業したブティック。祖母と母が店に立つ様子をいつも間近で見てきた。
「いらっしゃいませー」
「あら、絹子さん、そのスカーフいい柄しているわね」
祖母も母もおしゃれな人で、いつもさりげなくセンスのいいアイテムで自身を彩っていた。
お客様たちはいつも明るい祖母と母からまるで太陽の光を浴びるひまわりのように、エネルギーを受け取っていたように思う。
「にゃー」
「イト、おいで!」
時たま近所に現れる白い猫・イト。
餌をやるうちにわたしに懐いた、綺麗な瞳をした猫。
学校に帰るとランドセルを置いて真っ先にイトに会いに行く。
「学校の宿題は終わったのか?」
「うん、さっき終わって、今から遊びにいくところ!」
その猫がたまに近所で見かけるクールだけどさりげなく世話を焼くお兄さんと同一人物だと知るのはもう少し先のこと。
遊んで帰ってくると、店先で笑顔で帰路につくお客様に出くわす。
うちの店に来ている女性たちはみんな、服を買いに来ているんじゃない。
福を受け取りに来ていたのだ。
それがわたしの見慣れた風景だった。
だというのに、わたしはといえば、学校では内にこもりがちな少女だった。
内向的で、人前に立つことや話すことが苦手な地味な少女。
おしゃれにもどういうわけか子供の頃は関心がなく、服なんて暑さや寒さにさえ適応してさえいれば、誰かのお古で十分だとさえ思っていた。
服よりも本や漫画の世界が好きで、そこに没頭していた。
そんなわたしは、派手な女の子たちから見れば、”変な子”だったのだろう。
誰とも話さず、おかしな服を着て、教室の隅っこで本ばかり読みあさっている。
気づけば教室のあちこちでささやき声が聞こえるようになった。
――陰キャだよね、福留って。
――話しかけても小さい声でしか返事しねえの、キモっ。
そんな声が聞こえれば聞こえるほど、わたしは内にこもった。
誰とも話したくない、誰とも目を合わせたくない。
そんな思いが募っていった。
下を向きがちになり、表情筋は固まった。
そうするとますます表情は美しくなくなるし、姿勢も悪くなる。
どんどん不格好になっていく自分が、みっともないと思っているのに、どうしても変えることができなかった。
変えるきっかけがまるでなかったのだ。
双子の姉のお客様をお見送りするやいなや、わたしは店を飛び出した。
イトがしんどそうという言葉にいてもたってもいられない。
もしもイトの健康に、命に、重大な問題があったらと思うと――胸が、体が、引きちぎれそうだ。
だって、イトはわたしのおじいちゃんなのだから。
またそれ以上に、今のわたしにとって大切な相棒なのだから。
イトなしにわたしの今は考えられない。
*
物心ついたときから、わたしはたくさんの洋服に囲まれていた。
祖母・絹子が開業したブティック。祖母と母が店に立つ様子をいつも間近で見てきた。
「いらっしゃいませー」
「あら、絹子さん、そのスカーフいい柄しているわね」
祖母も母もおしゃれな人で、いつもさりげなくセンスのいいアイテムで自身を彩っていた。
お客様たちはいつも明るい祖母と母からまるで太陽の光を浴びるひまわりのように、エネルギーを受け取っていたように思う。
「にゃー」
「イト、おいで!」
時たま近所に現れる白い猫・イト。
餌をやるうちにわたしに懐いた、綺麗な瞳をした猫。
学校に帰るとランドセルを置いて真っ先にイトに会いに行く。
「学校の宿題は終わったのか?」
「うん、さっき終わって、今から遊びにいくところ!」
その猫がたまに近所で見かけるクールだけどさりげなく世話を焼くお兄さんと同一人物だと知るのはもう少し先のこと。
遊んで帰ってくると、店先で笑顔で帰路につくお客様に出くわす。
うちの店に来ている女性たちはみんな、服を買いに来ているんじゃない。
福を受け取りに来ていたのだ。
それがわたしの見慣れた風景だった。
だというのに、わたしはといえば、学校では内にこもりがちな少女だった。
内向的で、人前に立つことや話すことが苦手な地味な少女。
おしゃれにもどういうわけか子供の頃は関心がなく、服なんて暑さや寒さにさえ適応してさえいれば、誰かのお古で十分だとさえ思っていた。
服よりも本や漫画の世界が好きで、そこに没頭していた。
そんなわたしは、派手な女の子たちから見れば、”変な子”だったのだろう。
誰とも話さず、おかしな服を着て、教室の隅っこで本ばかり読みあさっている。
気づけば教室のあちこちでささやき声が聞こえるようになった。
――陰キャだよね、福留って。
――話しかけても小さい声でしか返事しねえの、キモっ。
そんな声が聞こえれば聞こえるほど、わたしは内にこもった。
誰とも話したくない、誰とも目を合わせたくない。
そんな思いが募っていった。
下を向きがちになり、表情筋は固まった。
そうするとますます表情は美しくなくなるし、姿勢も悪くなる。
どんどん不格好になっていく自分が、みっともないと思っているのに、どうしても変えることができなかった。
変えるきっかけがまるでなかったのだ。