謝るほかなかった。
妹の苦しみにいつも一番近い場所にいる私が気づけなかったなんて。
妹の立場や気持ちを想像することができなかったなんて。
姉として、双子として……いや、人として情けない。
『いいの。このお店に来て、”あの服”に出会えて、糸をほどくことができたから』
鏡の中で妹は笑っていた。心からの安堵の笑みだ。
その言葉を最後に、鏡の中の妹は消え、鏡の中は彼女にそっくりな私の姿を映し出す。
”あの服”がどれを指すのか、妹は名言しなかった。
だけどわかる気がする。
だって私たちは双子なのだから。
私は店内を歩き始めた。
どれが妹が見つけた服なのか、十数秒のうちに見つけ出した。
――この白い服だ。
理由はどこにもない。
ただそう感じたのだ。
真っ白なTシャツを手に、私は確信する。この服が私を呼んでいる。
「エシカルファッションって言うんです、それ」
シャツを手に取りまじまじと見つめる私に、店員さんが説明を加えた。
なんとなく、この服とは以前に出会ったかのような、懐かしい感じがする。
それは双子が買ったからってだけじゃない。
この服それ自体が持つ温かい魅力や安心感みたいなもの。
手触りや色合い、デザイン。
すべてが人を攻撃していない、責めていない、ただ見守って包み込んでくれるような、そんなイメージがふと頭に降りてきた。
「試着していいですか?」
「もちろん。そうおっしゃると思っていました」
試着してみると、予想通りの着心地だった。すべてが私にフィットしているというだけじゃない。
エシカルファッションというだけあって、誰かが誰かのことを思う温かみがどういうわけかじわじわと伝わってくるのだ。
すべてが思いやりでできた服。
誰かを、何かを傷つけた末にできあがったわけではない服。
そう生きたい、と願った。
妹のことをこれ以上傷つけたくない。
もちろん、自分自身のことも。
鏡の中の私に絡みついていた夥しいまでの本数の糸は消えていた。
両親が私を縛っていたのではなく、私が家族を縛ってきた部分があったのだ。
その犠牲になったのが、ほかならぬ妹なんだ。
目をこらすと、未だ一本の白い糸が私の手首に巻き付き、どこかへ伸びていることに気がついた。
切れそうで切れない糸。
これは絆だと直感する。
私たち双子の姉妹を結ぶ一本の糸。
切ってはならない縁。
私たち双子は決してポルックスとカストルのように別々の悲劇の道を歩むわけではない。
血を分け合った姉妹として、支え合いながら生きていくほかないのだ。
「これ買います」
試着室を出ると、私は店員さんに告げた。
「あなたの優しさにふさわしい服です」
「そうだといいんですが」
「きっとわかり合えます。糸を自ら断ち切りさえしなければ」
その言葉に背中を押された。
大丈夫、切ったりはしませんよ、と心の中で答えた。
どれだけ距離や時間が離れていても、私たちはかけがえのない姉妹。
胸を張ってそう言えるとき、私は私の本当の笑顔を取り戻せるのだ。
*
会計を済ませ、店先まで見送ってもらったとき、ふと頭の片隅にあった映像が巻き戻った。
なんと言うことはなく、気にかかって店の周辺をきょろきょろ見回す。
「さっきの猫ちゃん、どこかしら」
「白い猫ですよね? 近所に住んでいる野良猫なんです」
「ああ、飼い猫じゃないんですか?」
「ほとんどうちの飼い猫になりつつはあるんですが」
「そうでしたか。さっき見かけたとき、すごくしんどそうで……」
「……え!?」
これまでに見たことのない狼狽ぶりを店員さんが見せる。
「すみません、ちょっと失礼します! ありがとうございました!」
ぺこっと頭を下げると、店員さんは路地の奥へと消えてしまった。
大切な猫だったのだ――もっと早く伝えていれば良かった、という後悔が胸を過ぎる。
お店と猫のことが気にかかりつつも、私は家路についた。
ここからが、私たち姉妹の関係の再出発なのだという思いを胸にして。
(7着目:完)
妹の苦しみにいつも一番近い場所にいる私が気づけなかったなんて。
妹の立場や気持ちを想像することができなかったなんて。
姉として、双子として……いや、人として情けない。
『いいの。このお店に来て、”あの服”に出会えて、糸をほどくことができたから』
鏡の中で妹は笑っていた。心からの安堵の笑みだ。
その言葉を最後に、鏡の中の妹は消え、鏡の中は彼女にそっくりな私の姿を映し出す。
”あの服”がどれを指すのか、妹は名言しなかった。
だけどわかる気がする。
だって私たちは双子なのだから。
私は店内を歩き始めた。
どれが妹が見つけた服なのか、十数秒のうちに見つけ出した。
――この白い服だ。
理由はどこにもない。
ただそう感じたのだ。
真っ白なTシャツを手に、私は確信する。この服が私を呼んでいる。
「エシカルファッションって言うんです、それ」
シャツを手に取りまじまじと見つめる私に、店員さんが説明を加えた。
なんとなく、この服とは以前に出会ったかのような、懐かしい感じがする。
それは双子が買ったからってだけじゃない。
この服それ自体が持つ温かい魅力や安心感みたいなもの。
手触りや色合い、デザイン。
すべてが人を攻撃していない、責めていない、ただ見守って包み込んでくれるような、そんなイメージがふと頭に降りてきた。
「試着していいですか?」
「もちろん。そうおっしゃると思っていました」
試着してみると、予想通りの着心地だった。すべてが私にフィットしているというだけじゃない。
エシカルファッションというだけあって、誰かが誰かのことを思う温かみがどういうわけかじわじわと伝わってくるのだ。
すべてが思いやりでできた服。
誰かを、何かを傷つけた末にできあがったわけではない服。
そう生きたい、と願った。
妹のことをこれ以上傷つけたくない。
もちろん、自分自身のことも。
鏡の中の私に絡みついていた夥しいまでの本数の糸は消えていた。
両親が私を縛っていたのではなく、私が家族を縛ってきた部分があったのだ。
その犠牲になったのが、ほかならぬ妹なんだ。
目をこらすと、未だ一本の白い糸が私の手首に巻き付き、どこかへ伸びていることに気がついた。
切れそうで切れない糸。
これは絆だと直感する。
私たち双子の姉妹を結ぶ一本の糸。
切ってはならない縁。
私たち双子は決してポルックスとカストルのように別々の悲劇の道を歩むわけではない。
血を分け合った姉妹として、支え合いながら生きていくほかないのだ。
「これ買います」
試着室を出ると、私は店員さんに告げた。
「あなたの優しさにふさわしい服です」
「そうだといいんですが」
「きっとわかり合えます。糸を自ら断ち切りさえしなければ」
その言葉に背中を押された。
大丈夫、切ったりはしませんよ、と心の中で答えた。
どれだけ距離や時間が離れていても、私たちはかけがえのない姉妹。
胸を張ってそう言えるとき、私は私の本当の笑顔を取り戻せるのだ。
*
会計を済ませ、店先まで見送ってもらったとき、ふと頭の片隅にあった映像が巻き戻った。
なんと言うことはなく、気にかかって店の周辺をきょろきょろ見回す。
「さっきの猫ちゃん、どこかしら」
「白い猫ですよね? 近所に住んでいる野良猫なんです」
「ああ、飼い猫じゃないんですか?」
「ほとんどうちの飼い猫になりつつはあるんですが」
「そうでしたか。さっき見かけたとき、すごくしんどそうで……」
「……え!?」
これまでに見たことのない狼狽ぶりを店員さんが見せる。
「すみません、ちょっと失礼します! ありがとうございました!」
ぺこっと頭を下げると、店員さんは路地の奥へと消えてしまった。
大切な猫だったのだ――もっと早く伝えていれば良かった、という後悔が胸を過ぎる。
お店と猫のことが気にかかりつつも、私は家路についた。
ここからが、私たち姉妹の関係の再出発なのだという思いを胸にして。
(7着目:完)