店員さんの質問に私は当然のように答えた。

「それは、両親が端っこを握っている糸だと思います。操り人形みたいに彼らは私を管理していますから、お恥ずかしい話ですが」
「なるほど……では、妹さんにはそんな糸は絡みついていないのでしょうか」
「はい、彼女は自由ですから」

 考えることなく即答すると、彼女は考え込むように宙を見上げた。
 その素振りにはどこか、以前この店に来たはずの妹から何かしらの話を聞いているのではないかといった雰囲気を感じる。
 一体、妹はこの店で何を話し、何を見て、何を買ったのか。

「……もう一度、勇気を出して鏡を覗いていただけませんか?」

 何という提案だろうか。
 いったん躊躇はしたものの、再び鏡の前に立つ。
 そこに見えるはずのものは、先ほど見えたはずだ。とても暗示的で示唆的な光景を。

 しかし、見えた光景はさっきのものとは違った。
 鏡に顔をまっすぐ向けて、考えるまでもなく、すぐに第三者にはわからない決定的な違いに気がつく。

――私じゃない、これ。

 目の前の鏡に映る人間。
 それは私じゃなかった。
 私のようで、私じゃない――すなわち、一卵性双生児の妹。

「これが、妹の本当の姿なんですね」

 小さく呟く私の目の先には、白い糸で手足が雁字搦めになった妹の姿。
 どうして、と気づけば口からこぼれていた。
 私なんかよりずっとずっと自由なはずなのに。
 私なんかよりずっとずっと人生が輝いているはずなのに。
 どうしてこうどんよりと暗いんだ。

「何に縛られているの」

 鏡の向こう側に問いかける。
 返事はないものと思っていたのだけれど――

『愛されたかったの。家族に』
「愛されたかった?」

 鏡の中の妹がしゃべった。まさかそんな、という思い以上に、彼女の口から出た意外な言葉に対する驚きが勝った。

『お父さんもお母さんも、お姉ちゃんのことばっかり愛して、私にはなにもしてくれなかったでしょう?』
「うそ、私はあなたが自由だとばかり。私だけどうして両親に縛られてるのって、あなたのことが羨ましかったのに」
『誰も私を愛してくれないから、私も私を愛せなくて苦しんでいたの。三十年以上もの間、私は与えられる側じゃなく、奪われる側だった』
「まさか」
『私、ずっと自分のことを”じゃない方”だって思ってきたのよ。生まれてくるべきじゃなかった方って』

 出すべき言葉が見つからなかった。
 嘘だ、冗談だ、と頭の中でうずがぐるぐると回り続けている。
 みしみしと頭が縄で縛り付けられているかのように痛む。

「こっちだって――」

 言いかけて口をつぐむ。
 こっちだって苦しんできた、なんて言えない。

 私たちは”二人とも”苦しんできたんだ。両親からの理不尽な愛の天秤に掛けられ、片や愛玩され、片や無視されてきたなんて。

「ごめんね、気づけなかった」