「私たちは、監視されている姉・自由な妹、そういう関係なんです。そういう関係に腹を立て、仕返しのように妹のことを監視していた時期もあるくらいです。
こともあろうに、高校になって妹はアルバイトを始めました。アルバイトなんて、私から見れば自由の代名詞です。自分の意思で働いて、お金をもらって、それで自由に物が買えるなんて!」
いけない、思わずヒートアップしてしまった。
呼吸が浅くなっている。落ち着いて深呼吸。
あの子は一体あのお金で何を買っていたんだろう。
妹のバイト中に部屋をこっそり覗いてみても、お金の使い道はわからなかった。きっと私の目に付かないところに隠し持っていたか、常に持ち歩くかしていたのだろう。
あの子は一体この店で何を買ったのだろう。
もうあの子が実家を離れて十年近くになる。十年もの間、会うのは年に1、2回、連絡をとることなど皆無という関係だ。
彼女がどんな服を好み、どんな生活をしているのか、あずかり知らぬところである。
異性受けするかわいい服だろうか?
女子受けするかっこいい服だろうか?
流行のセット?
背伸びした大人っぽい服?
……くだらない。
自分一人で買い物に来ているのだから、私が好きな服を買えばいいのに。
でも、好きな服なんてあるんだろうか?
私、何が好きなんだろうか。
与えられる物を受け取っているばかりで、結局は私は自力では何も選んでこなかったのではないか。
選択できないことを嘆いても、次の瞬間に何かを与えられればそれを黙って受け取ってしまう。拒否することもなく、抵抗することもなく。
自分の感情、表情ではなく、「その場でどんな表情が好ましいか」を計算する癖だって同じだ。
《万人受けする笑顔》や《仕方なく許してもらえる申し訳ない顔》を鏡の前で研究したのは、いつのことだっただろう?
その場その場の状況で左右され続けているだけで、私自身の思いや意思がそこにはない。
しかもその努力だって虚しいものだ。
さっき、店員さんに看破されたわけだし、いろんな人に作り物だと見破られているのだろう。
今もこうして「妹が何を選んだか」ばかり気にしている。
馬鹿馬鹿しい、服ごときを選ぶのでさえ、こんな調子なんて。
「私も妹のように生きたかった。本当は羨ましいんです。両親の手のひらの上から飛び立っていける妹が。私は糸で縛り付けられているというのに……ただの嫉妬です」
声が震えた。今まで誰にもそんなこと言ったことなかったのに。
三十年以上生きてきて、ようやくそんなつまらないことが声にして言えるようになったのか。
本当に私は甘ちゃんだ。
そこで店員さんが長い沈黙を破った。
「あなたを縛っている糸って、一体何なんでしょう」