私の体中にびっしり張り巡らされた糸。鏡の中の私は糸で縛られている。
もちろん、本物の私の体にはそんなもの付いてはいない。
体に糸が張り巡らされていること以外は、現実の景色と何ら相違はなかった。現実の景色がそっくりそのまま左右反転で映し出されているだけだ。
目をこすったり瞬きしてもその光景は変わらなかった。
――私が何かに縛られているってこと……?
ああ、そういうことなんだ、とため息をついた。
これは幻覚なんかじゃない。
この鏡に映っているのは、本当の私の姿なんだ――そう思うと、ぞっと身の毛がよだった。
「どうされました?」
「あの、鏡……いえ、なんでもないんです」
店員さんの声で、現実に引き戻される。でも、今私の目に見えていることをそのまま伝えていいものか、どうか。躊躇していると、
「やっぱりこの鏡、変ですかね?」
店員さんは鏡をひょこっと覗き込んで尋ねる。どうやら彼女の目には鏡の中の私に絡みつく糸は見えていないような、そんな淡々とした反応だ。
本人にしか見えないってわけね――。
「……変、といいますか、不思議な鏡ですね」
「お気を悪くされたのでしたら、すみません。お茶をどうぞ」
「いえ……これが真実なんだと思います」
勧められたソファに腰掛けて冷たいお茶を一口すすると、私はぽつり呟いた。
「――妹が自由で羨ましい」
自然と私は両手を握りしめていた。
どうして私だけが、損しているのだろう。
どうして私だけが、こんな不愉快な糸に縛られて生きているのだろう。
この糸をたどった先にいる者。
わかっている、それが私の父親と母親であることくらい。
きっとこの鏡に映る妹は、糸になんて縛られていなかったはずだ。
「子供の頃から何度も思い続けてきました。本人にそんな思いをぶつけたことだってあります。家でも学校でも、妹に八つ当たりしていました。
何であんただけ自由なんだって。私はいつだって両親に管理されているお人形なのに」
既知の仲ではない年下らしき女性店員にこんなことを告白するのはどうかと気が引けたが、気づけばほろりと告白の言葉がしたからこぼれ落ちていた。
彼女は戸惑うことなく、不快そうにするでもなく、深く頷いた。不思議な人だ。
もちろん、本物の私の体にはそんなもの付いてはいない。
体に糸が張り巡らされていること以外は、現実の景色と何ら相違はなかった。現実の景色がそっくりそのまま左右反転で映し出されているだけだ。
目をこすったり瞬きしてもその光景は変わらなかった。
――私が何かに縛られているってこと……?
ああ、そういうことなんだ、とため息をついた。
これは幻覚なんかじゃない。
この鏡に映っているのは、本当の私の姿なんだ――そう思うと、ぞっと身の毛がよだった。
「どうされました?」
「あの、鏡……いえ、なんでもないんです」
店員さんの声で、現実に引き戻される。でも、今私の目に見えていることをそのまま伝えていいものか、どうか。躊躇していると、
「やっぱりこの鏡、変ですかね?」
店員さんは鏡をひょこっと覗き込んで尋ねる。どうやら彼女の目には鏡の中の私に絡みつく糸は見えていないような、そんな淡々とした反応だ。
本人にしか見えないってわけね――。
「……変、といいますか、不思議な鏡ですね」
「お気を悪くされたのでしたら、すみません。お茶をどうぞ」
「いえ……これが真実なんだと思います」
勧められたソファに腰掛けて冷たいお茶を一口すすると、私はぽつり呟いた。
「――妹が自由で羨ましい」
自然と私は両手を握りしめていた。
どうして私だけが、損しているのだろう。
どうして私だけが、こんな不愉快な糸に縛られて生きているのだろう。
この糸をたどった先にいる者。
わかっている、それが私の父親と母親であることくらい。
きっとこの鏡に映る妹は、糸になんて縛られていなかったはずだ。
「子供の頃から何度も思い続けてきました。本人にそんな思いをぶつけたことだってあります。家でも学校でも、妹に八つ当たりしていました。
何であんただけ自由なんだって。私はいつだって両親に管理されているお人形なのに」
既知の仲ではない年下らしき女性店員にこんなことを告白するのはどうかと気が引けたが、気づけばほろりと告白の言葉がしたからこぼれ落ちていた。
彼女は戸惑うことなく、不快そうにするでもなく、深く頷いた。不思議な人だ。